ゼロの使い魔・2回目
 
第17話
 
 ガリアでのゴタゴタを処理し、トリステインに帰国した才人達ゼロ機関一行。
 
「うーん……」
 
 トリステイン魔法学院。火の塔の最上階においてなにやら考え込む女性が居た。
 
 桃色掛かったブロンドの髪を持つ女性、虚無の正当後継者であるブリミルは、やがて考え事が決まったのか一度頷き、
 
「良し、ゲルマニアのアルブレヒト三世を倒して代わりにキュルケ辺りに王様になってもらいましょう!」
 
「はい、またとんでも無い事を平然と言い出してきました」
 
 呆れ顔で告げるのは彼女の使い魔にしてゼロ機関副長の異世界人、平賀・才人だ。
 
「まぁ取り敢えず理由だけは聞いとくか。……絶対反対するけど」
 
 という才人の言葉に対し、ブリミルは大きく頷くと、
 
「決まってるじゃない」
 
 一息、
 
「あの豚(アルブレヒト三世)が嫌いだからよ!」
 
「私情かよ!?」
 
「悪意も入ってるわ!」
 
「同じだ馬鹿野郎!?」
 
 激論を交わすこと十分。双方共に肩で息をしながら着席し、
 
「じゃあ、そろそろ本題に入りましょうか」
 
「最初から入れよな……」
 
 才人の愚痴は華麗にスルー。
 
 ブリミルは表情を真剣なものに改めると、
 
「現状、トリステイン、アルビオン、ガリアの三国がゼロ機関の後ろ盾に付いてるとはいえ、この三国の主教はブリミル教よ。
 
 教皇が声を掛ければ、ロマリア側に寝返る輩も少なからず出てくるわ」
 
 確かにブリミルの言う事にも一理ある。
 
 寝返らない者にしても、士気には大きく影響してくるだろう。
 
「だから、ロマリアとの戦闘に関してはゼロ機関単独で当たる事になると思うわ」
 
「……確かに、後ろから刺される心配をしながら戦うよりは、その方が良いかも知れませんわね」
 
 エレオノールの言葉に我が意を得たりとブリミルは頷き、
 
「……で、聖堂騎士に関しては個々のスキルは高いし数もそこそこ多いけど、実戦経験が皆無だから無視してもらっても良いと思うわ」
 
 ぶっちゃけ、戦場でならば既に幾度も実戦を潜り抜けているギーシュの方が使えるだろう。
 
「厄介なのは虚無の担い手二人とヴィンダールヴね」
 
「中でも厄介なのはヴィンダールヴの操る風竜の成竜ね」
 
 思い出すのはヨルムンガントでさえも軽々と持ち上げた巨大な風竜。
 
「残念な事に、アレに対抗する手段は現在のゼロ機関には無いわ」
 
 タイガー戦車では上空からの攻撃に対抗する手段は無く、ゼロ戦ではスピードでは勝るものの耐久力が足りない。
 
 少しでも攻撃が擦れば、その時点で破壊は確定だ。
 
「ヨルムンガントでもパワー負けするくらいだしなぁ……」
 
「そうね……、だから大風竜に対抗する為に、こちらも準備をしておきましょう」
 
「……準備?」
 
「そ、よく言うじゃない。目には目を――ってね」
 
 言ってブリミルが指さすのはテーブルに広げられたハルケギニアの地図のほぼ中央。
 
 ゲルマニアとガリアの国境にある火竜山脈だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「……もしかして、火竜山脈に行ってデカイ火竜を味方に付けてこいって言うんじゃないだろうな?」
 
「あら、良く分かったわね」
 
 笑顔で答えるブリミルに対し、才人は露骨に表情を歪め、
 
「あのですね、ブリミルさん。火竜っていうのは、知能の代わりに火を扱う能力を高めてきたような奴らでとても凶暴なんですが」
 
 以前のアルビオンとの戦闘で複数の火竜達を操りはしたが、あれらは全て幼竜でありヴィンダールヴの力を持ってすれば半ば力尽くであろうともなんとかなりはしたが、成竜ともなると一筋縄ではいかないだろう。
 
 だが、ブリミルは才人の言葉を聞いても特に動揺は見せず、
 
「へー、そうなの。頑張ってね」
 
 言って長杖を一振り。
 
 直後、才人の姿が少女達の眼前から消えた。
 
「ミス・ヴェルトリ、サイト様はどちらに?」
 
 傍らで給士をしていたサティーが問い掛けると、ブリミルは彼女の淹れてくれた紅茶を一口飲み、
 
「ん、火竜山脈」
 
 平然とそう告げた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ブリミルの転移魔法によって、強制的に火竜山脈に送り込まれた才人。
 
 すぐさま現状を理解した彼は深々と息を吐き出し、
 
「……つまり、大火竜を従えるまでは帰ってくるな、って事だよな」
 
 頭を掻いて周囲を見渡し、もう一度溜息を吐く。
 
 取り敢えず、身につけている物をチェックして武器を確認。
 
 出てきたのは鋼板が打ち付けられた一対の革グローブだけだ。
 
「よし、帰ろう」
 
 とは思うものの、ポケットの中を漁ってみても硬貨の一枚も出てこない。
 
 才人は三度目となる、今度は諦めの溜息を吐き出し、
 
「……やるしかないわけか」
 
 完全に退路を断たれた以上、後は前に進むしかない。
 
 ポジティブな思考でそう判断した才人は、スニーカーの爪先を地面に打ち付け遊びを無くし、長距離を歩く為の準備に入る。
 
「さて……、と」
 
 舌なめずりし、大きく前に一歩を踏み出す。
 
 急がず、慌てず、一歩一歩確実に山頂を目指して登って行く。
 
 相手は大物だ。ルーンの力にも制限時間があるので、極力無駄な消耗は控えたい。
 
「しっあわっせはー、あっるいってこっない、だーから歩いていくんだね! 一日一歩ー、三ぃ日で三歩、さーんぽ進んで二歩さっがーる!」
 
 口ずさむ歌に合わせて足を前後させ、
 
「結局、一歩しか進んでねぇー!?」
 
 何故か精神的ダメージを受けながら、ゆっくりと山頂を目指す。
 
 道すがら出会う極楽鳥や火竜に挨拶し、敵意の無い事を示しながらハイキング気分で進んでいく才人。
 
 ……とはいえ、
 
「流石にこの暑さは気が滅入るな……」
 
 足を止めないまま周囲を見渡すと、そこかしこから間欠泉が吹き出し、マグマが小川のように流れているような場所まである。
 
 たちこめる硫黄臭に顔を顰めつつ登頂を続ける才人。
 
 結局、彼が山頂の火口に辿り着いたのは、それから3時間も後の事だった。
 
「あつぅ……」
 
 余りの熱気に全身汗まみれで、既にパーカーを脱いでいる才人は火口を見下ろすと、
 
「ホントにこの中に居るのかよ?」
 
 ここに来るまでに火竜達から聞いた情報によると、大火竜は噴火口の中、すなわちマグマの中に居るという。
 
 通常ならば軽く死ねるような熱さのマグマも、炎と熱に特化した彼らにしてみれば、心地良いぬるま湯程度にしか感じないらしい。
 
 とはいえ、そんな鱗や皮膚を持つのは齢数千年を越える一部の大火竜だけで、通常の幼竜にそこまでの耐久性は無い。
 
「さてと……」
 
 ここからが本番だ。
 
 何の対策も無しに降りれば死は確実。
 
 とはいえ、如何なる系統魔法でもこの熱の前では対処などあるまい。
 
 可能性があるとすれば虚無の魔法だが、
 
「ルイズが付いて来てないって事は、俺一人で何とかなるって事だよな」
 
 周りに誰も居ない為、思わずブリミルではなくルイズの名前が出てしまった事に苦笑しつつ、
 
「って事は、やっぱりコレか」
 
 掲げるのは左手。
 
 そこに刻まれたルーンの名はガンダールヴ。その意味は魔法を操る小人。
 
 そして、操る魔法は先住魔法。
 
 才人が精霊に呼びかけるとマグマの海が割れ、そこに眠る大竜の姿が露出される。
 
「でけぇ……」
 
 火口口からマグマだまりまで数十メイルの距離があるというにも関わらず、その大竜の巨体は全長50メイル以上、羽根を広げれば100メイル以上はあろうかという程に巨大な成竜が佇んでいた。
 
 漆黒の大竜は自分の周囲からマグマが消えている事を察すると鎌首をもたげて原因を探す。
 
「うわ、目が合った」
 
 才人の姿を見つけた火竜は大きく伸びをするように身体を伸ばし、翼で大気を叩く。
 
 ――上昇。
 
 次の瞬間には大竜の身体は火口から飛び出し、遙か上空にまで飛び出していた。
 
 翼を全開にまで広げ、ゆっくりと降下してくる大竜。
 
 その威容を前に一歩、二歩と後退りするものの、そこで踏み留まる。
 
 ここで逃げてしまっては、なんの意味も無いのだ。
 
 轟音と地響きを伴って着地する大火竜を前に、気丈にも睨み返す才人。
 
 対する大竜は面白そうに才人を見下ろし、
 
「ほう、単なる者か。精霊を使役していたのでネフテスかと思ったのだが……」
 
 腹に響くような大音量でそう告げた。
 
 対する才人は驚きと共に、
 
「喋った……!? って事は、韻竜かよ!」
 
「ほう……、我らを知るか。単なる者よ」
 
 興味深そうに才人を見つめる。
 
 通常、韻竜は人からその存在を隠すように生息しているのだが、この大韻竜の場合、例え居場所を知られても人程度にどうこう出来るとは思っていないのだろう。
 
 確かに、マグマの中など才人のように先住魔法を使えでもしない限り絶対に手出し出来ないような場所だ。人に脅かされる心配など皆無と言っても過言ではない。
 
 ……まぁ、軍隊率いて来ても勝てるような相手でもないしなぁ。
 
「それで? 我になんの用だ、単なる者よ」
 
「あぁ、……世界を守る為に力を貸して欲しい」
 
 告げた言葉に韻竜は一度鼻を鳴らし、
 
「つまらんな」
 
「へ……?」
 
「世界を守るなどとお題目を掲げたところで、どうせやっている事など単なる者同士の諍いだろう。
 
 世界に害悪しななさず、我が物顔で世界を蹂躙するような今の単なる者達など滅びてしかるべきよ」
 
 ……時間の無駄だったか。
 
 失望の溜息は紅蓮の炎熱だ。
 
 灼熱の炎が才人を焼く。
 
 人の身では到底耐えられないような炎はしかし、まるで才人の身体を避けるように周りの地面だけを溶かした。
 
「ほう……。そう言えば貴様、単なる者の分際で精霊を行使したのだったな」
 
 僅かに思案し、韻竜は口元に獰猛な笑みを浮かべ、
 
「面白い。――ならば一つ、戯れをしよう」
 
 上体を起こし、その威容を才人の眼前に晒し、
 
「我に一撃を入れてみよ。それが出来たならば、力を貸してやろう」
 
「マジで!?」
 
 但し、
 
「出来ぬ場合、貴様は死ぬ」
 
 告げると同時、左前足が勢いよく才人に向けて振り下ろされた。
 
 その巨体に似合わぬ素早い動きと不意打ちを前に、才人は為す術もなく押し潰される。
 
「む……」
 
 だが、その事に真っ先に違和感を感じたのは、他の誰でも無い韻竜自身だった。
 
 まず始めに感じたのは振り下ろした筈の腕が大地に届いていない事。
 
 そしてそれを確かめる為に腕を退こうとするのだが、身体が微動だにしない事。
 
「随分と、乱暴な野郎だな」
 
 聞こえてきた声と同時、自らの意思に反して身体が動く。
 
 それは前足を退く動きで、同時に頭を垂れるように平伏する動きだ。
 
「貴様……!?」
 
 文字通り、目と鼻の先に現れた才人の姿……、その右手の甲で輝きを放つルーンを見て韻竜は息を飲んだ。
 
 ……そのルーンは!?
 
「取り敢えず、約束の一発!!」
 
 ガンダールヴの力を発動させないままの一撃。
 
 それは韻竜にしてみれば蚊に刺された程度の痛みも無いようなものだ。だが韻竜は身動ぎもせずに才人を見つめ、
 
「その右手。貴様……、ヴィンダールヴか」
 
「知ってんのか?」
 
「知っているも何も、我こそが初代ヴィンダールヴの翼、全韻竜のトートゥムだ」 
 
 当時、まだ幼かった己の背にブリミルや他の使い魔達を乗せて世界中を飛び回ったとの事。
 
「へー、じゃあデルフとかも知ってる?」
 
「当然だ。あの口の悪い剣の事など、忘れたくとも出来ようか」
 
 言って豪快に笑う。
 
 その大音量の前に、思わず耳を塞いだ才人は韻竜が笑いを収めるのを待って、
 
「アイツなら今、ウチに居るよ」
 
「なんだと?」
 
 左手のルーンを見せ、
 
「ガンダールヴ。……それに額のそれはミョズニトニルンか」
 
「これもある」
 
 言って、胸のルーンも見せる。
 
「全てのルーンを宿した虚無の使い魔か……」
 
 一息。
 
 トートゥムは再度大笑し、
 
「面白いな貴様。――いや、名を聞こうか虚無の使い魔よ」
 
 問われ、才人は頷きと共に名を告げる。
 
「才人。……平賀・才人」
 
「では、サイト殿と。――全韻竜トートゥム。約束通り、これより貴公の翼となり全天を駆けよう」
 
「あぁ、ありがとう。ところで……」
 
「何だ?」
 
「全韻竜って何?」
 
 才人の問い掛けに対し、トートゥムは眉根を寄せ、
 
「貴公、何故韻竜の事を知っていて全韻竜の事を知らん?」
 
 呆れ顔で溜息混じりに炎を吐きつつ、それでも説明してくれた。
 
「通常、竜族というのは風竜、火竜、水竜、地竜の四種族に分けられる。
 
 それぞれの種族は、それぞれの能力に特化しておってな」
 
 風竜ならば飛翔能力に優れ、火竜からばブレス、水竜は泳ぎに、地竜はその爪と牙を用いた格闘能力というふうにそれぞれの分野で、能力が秀でている。
 
 これは普通の竜族であろうと韻竜であろうと変わりない。
 
「それら四種族の始祖ともいえる種族、風を纏い炎を吐き水に潜り大地を駆ける。ありとあらゆる面で全てにおいて優れた種族、それが我ら全韻竜。または始韻竜と呼ぶ者もおる」
 
 それは聞いた才人は素直に感心し、
 
「へー……、凄いな」
 
「当然であろう」
 
 褒められて嬉しいのか、目を細め笑みを浮かべるトートゥム。
 
「それで? 我を仲間に引き込もうというのだ。敵はそれなりに強いのだろうな?」
 
 問われ、頷き返した才人は事情を説明する。
 
 ロマリアという国とエルフとの戦争を止める事。そして、全ての虚無とエルフの力を合わせヴァリヤーグと相対しなければならないという事を。
 
 それを聞いたトートゥムは面白くなさそうに眉を顰め、
 
「ふん、ヴァリヤーグか。よもや未だ残存が居たとはな……」
 
 相手がヴァリヤーグとなれば、力を貸す事も吝かではない。
 
「久し振りに全力で暴れられそうだ」
 
「地形を破壊しない程度にな……」
 
 呆れたように告げ、トートゥムの腹を軽く叩いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 その後、トートゥムの背に乗って一直線にトリステイン魔法学院を目指していた才人だが、道すがら話した会話の中に出てきたシルフィードに興味を持ったトートゥムの為、進路をガリアに向ける事にした。
 
 ……まぁ、そんなに急いで帰る必要も無いしなぁ。
 
 というか、問答無用で武器も持たずに跳ばされた恨みを忘れたわけではない。
 
「良し、暫くガリアで世話んなろう!」
 
「我はどちらでも良いがな。……久方ぶりに世界を見て回ってみたいとも思うが」
 
「あ、それも良いな。そうするか」
 
 そんな事を考えている内に、リュティスが見えてきた。
 
「速いな。……火竜山脈を出てから3時間も経ってないのに」
 
「ふ、我の翼は風竜のそれを遙かに凌ぐぞ」
 
 リュティスに近づくと、城の警備を務める竜騎兵達が警戒のため編隊を組んでやって来た。
 
「お、王城の上空は飛行禁止令が出ている! 直ちに進路を変更するか、着陸されたし!」
 
 竜騎士達が大声で警告するが、巨大な竜を前にして恐怖から声が震えているので余り迫力が無い。
 
 才人は取り敢えず立ち上がって手を振り、敵意が無い事を示して、
 
「シャルロット女王陛下に用があるんですけども!」
 
「ヒラガ公爵!?」
 
 相手に敵意が無い事を確認して、ようやく相手の顔がハッキリと見える距離まで近づいてきた竜騎士の一人が才人の顔を見て背筋を伸ばし姿勢を正す。
 
 才人達ゼロ機関の者が尋ねて来たら、最優先で通すようにと女王陛下からは直々に言い聞かされている。
 
 即座に一騎がタバサに報告に向かい、才人達は竜騎士達に先導されてヴェルサルテイル宮殿の中庭に着陸した。
 
「しかし……、大きな竜ですな。これは火竜ですか?」
 
 風竜にしては鱗が厚く、凶暴そうな外見をしている。
 
「いやぁ、……ちょっと違うんですけどね」
 
 抗議の声を挙げようとするトートゥムを黙らせ、曖昧な笑みを浮かべて誤魔化す才人。
 
 衛兵に連れられて、王宮に入ろうとした所でタバサの方からやって来てくれた。
 
「よう、久し振り」
 
 軽く手を挙げて挨拶する才人に対し、タバサも頷く事で返礼とする。
 
 タバサは衛兵達を下がらせると、
 
「……何か用?」
 
「ん、あぁ、コイツがシルフィードに会ってみたいっていうんでな」
 
「そう……」
 
 じっとトートゥムを見つめ、
 
「この子も韻竜?」
 
「分かるのか?」
 
「そんな気がしただけ」
 
 タバサが口笛を吹くと、上空からシルフィードがやって来た。
 
「きゅい!?」
 
 トートゥムの姿を確認したシルフィードは萎縮して近づこうとしないが、タバサに呼ばれて渋々という風体でようやく降りて来た。
 
 その背にはタバサとそっくりの少女、ジョゼットが乗っている。
 
「凄いわ、この竜とても大きい!」
 
 物怖じせずにトートゥムに駆け寄ってその鱗を撫で始めた。
 
 トートゥム自身は構う事無く、シルフィードにちょっかいを掛け始める。
 
「きゅい!? きゅい!!」
 
「……喜んでる」
 
「全然、喜んでないのね!? むしろ逃げたがってるのね!」
 
「そう邪険にするな。我とて韻竜に会ったのは数千年ぶりだ」
 
「だからって、甘噛みは止めて欲しいのね!? シルフィーの鱗は可憐だから、それだけで傷がついちゃうのね!?」
 
 じゃれ合う二匹の韻竜を見つめた才人は呆れ顔で、
 
「……セクハラ?」
 
「セクハラって何?」
 
 タバサに問われ、暫し考え、
 
「偉いさんがどさくさに紛れて部下の尻触ったりするようなもんかな?」
 
「ふむ……、それは変わった文化だな」
 
「文化っていうか……、文化でいいや。
 
 それよりも、嫌がってるみたいだから止めてやれよ」
 
 才人が止めると、トートゥムは素直に身を退いた。
 
「た、助かったのね〜。お兄様ありがとうなのね!」
 
 言って、シルフィードは才人に首を擦り付けてくる。
 
「ふむ、そういう甘え方もあるのか。……どれ」
 
 シルフィードの真似をしてトートゥムも才人に首を擦り付けようとするのだが、力加減を謝って鼻先から直撃し、
 
「ごふぅ――ッ!?」
 
 大型ダンプの直撃を受けたように吹っ飛ばした。
 
 ゴロゴロと地面を転がり、城壁にぶつかってようやく停止したもののダメージが大きいのか怪しげな痙攣を始める才人。
 
「む……、これはいかん」
 
 トートゥムは詠唱を開始。
 
 水の精霊に語りかけ、才人の怪我を完治させた。
 
 直後に復活した才人は勢いよく飛び起き、
 
「殺す気か!?」
 
「ふむ、それに関しては素直に謝罪しよう。許せ」
 
「……まあ良いけど」
 
 そのやり取りを見ていたジョゼットはころころと笑い、
 
「ほんと、サイトお兄様って面白いお方ね」
 
「きゅいきゅい♪」
 
「…………」
 
 才人が褒められると嬉しいが、それが異性となるとどうもいまいち素直に喜べない感情が沸き上がってくる。
 
 その事を自覚しているタバサは深呼吸をして息を整え、才人の服の袖を引き、
 
「そろそろ食事。……食べていって」
 
 現在文無しの才人としては、その申し出はとてもありがたいものだが、
 
「……かなり、食いそうだな」
 
 横のトートゥムを見つめ、今後の食費の事を考え溜息を吐き出す。
 
「我か? ふむ、……まぁ、人型をとればそれほど燃費は悪く無いがな」
 
「きゅいきゅい♪ ごはん、ごはん〜♪」
 
 シルフィードとトートゥムが同時にその身を竜から人へと変える。
 
 シルフィードは既に見慣れた青い髪の麗人なのだが、トートゥムは、
 
「……何だ? この姿がそんなに珍しいか?」
 
 尻まで届くような長い黒髪に紅い瞳。その髪の色とは正反対に白く透けるような肌の色。
 
「お、お前……」
 
 なだらかな曲線を有する体躯は辛うじて女性である事を認識させるが、背は低く才人の腹くらいまでしかない。     
 
「お前、女だったのか!?」
 
「失礼な……」
 
 ……喋り方から、てっきり雄だとばかり思ってた。
 
「つーか、何でそんなに小さいんだよ?」
 
「これくらいが一番燃費が良いのだ」
 
 それに相手の本質も見抜けない愚かな獣が襲いかかってくるので、それを返り討ちにして糧とするのにも適している。
 
「まぁ良いや。取り敢えず、これ着とけ」
 
 言って、上着を脱いでトートゥムに手渡す。
 
 ……が、
 
「いらん。どうも、単なる者達が着る服というものは肌が擦れて気持ち悪い」
 
「裸のままで歩き回られると、こっちが困るんだよ!?」
 
 言ってヴィンダールヴの力を使い、強引に服を着させた。
 
「ぬお!? 貴様!」
 
 トートゥムの抗議を無視して、才人はタバサに向き直り、
 
「タバサ、トートゥムの服って用意出来るか?」
 
 タバサは小さく頷き、
 
「わたしの小さい時のお下がりで良かったら」
 
「あぁ、それで良い。悪いけど、着させてやってくれ」
 
 流石にパーカーを貸しっぱなしというわけにもいかない。
 
「破くなよ」
 
 一言、トートゥムに忠告すると、恨みがましい声で「覚えておけよ、貴様」と返ってきた。
 
 剣呑な言葉を吐きながらも、タバサに連れられて姿を消すトートゥムを見送る才人。
 
 その後、振る舞われたリュリュの料理の前にスッカリ機嫌を良くしたトートゥムは食前の恨みなど忘れ、
 
「ふむ……、こんな食事が摂れるなら、服を着てやる事くらい我慢してやっても良いな」
 
「はいはい」
 
 適当に返事を返しつつ、今後の予定を決める。
 
「取り敢えず、アルビオンでも行くか。偶には戻った方が良いだろうし」
 
「ほう、アルビオンか……。名物は何だ?」
 
 ……いきなり俗っぽくなったなコイツ。
 
 呆れた眼差しでトートゥムを見つめる才人。
 
 なんだかんだと今後の予定を話し合う二人を横に物思いに耽るタバサを見つめるオルレアン夫人とイザベラは、彼女の思惑を読み取り揃って溜息を吐き出した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 一晩、ヴェルサルテイル宮殿の方で宿を借りた才人は、翌朝アルビオンに向けて飛び立つ事にしたのだが、見送りに何故かタバサとジョゼット、そしてシルフィードの姿が無かった。
 
 その事をオルレアン夫人に問うてみると、
 
「ごめんなさいね。それと、あの娘達の事、よろしくお願いします」
 
 と言って、曖昧な笑みを浮かべる。
 
 それでおおよその事情を理解した才人も曖昧な笑みを浮かべ、
 
「えぇ、なるべく早い内に帰るように言ってみます」
 
「そうしてちょうだい」
 
 溜息混じりに告げるのはイザベラだ。
 
「お父様の時の方が仕事が楽っていうのもどういう事かしら?」
 
 別に嫌というわけでもないし、今の方が遙かに合理的なのも分かるが、ここまで王位に無頓着な女王も珍しいだろう。
 
 なんというかタバサの場合、隙あらばジョゼットかイザベラに王位を譲ろうと企んでいる節がある。
 
 勿論、ジョゼットにしてもイザベラにしても王位に即位しようなどとは微塵も思わない。
 
「じゃあ、留守の間は宜しく頼みます」
 
 タバサに代わり、二人に留守の事を頼み、トートゥムに乗ってアルビオンに向けて飛び立った。
 
 それを見送った後、イザベラはスカートのポケットから一枚の紙片を取り出し、
 
「ところで叔母様」
 
「何かしら? イザベラ」
 
「今朝、女王陛下の部屋でこのような物を見つけたのですが」
 
 言って、紙を差し出す。
 
 受け取った紙に視線を落としたオルレアン夫人は溜息を落とし、
 
「イザベ」
 
「お断りしますわ」
 
 名を呼び終わる前にキッパリと断るイザベラ。
 
「せめて一年は続けてもらわないと、流石に困るわねぇ……」
 
 オルレアン夫人の手にある紙。それにはアルビオン、トリステイン、ガリアの関係をより強固なものとする為という名目のタバサが才人の元へ嫁ぐ為の綿密な計画が記されていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ヴェルサルテイル宮殿を飛び立ってから、およそ十リーグほど離れたところで高速飛翔するトートゥムの更に上空から飛来する影があった。
 
 それは竜のような姿をしており、一つの言葉が付随していた。
 
「ぱいるだーおんなのねー!」
 
 着地には、かなりの衝撃があった筈なのだが、トートゥムの巨体はビクリともしない。
 
 トートゥムの背に降りたのは青の風韻竜シルフィード。そこから同じ顔の姉妹が顔を見せる。
 
「いらっしゃーい」
 
 予想はしていたので、驚く事なく双子を迎える才人。
 
 タバサとジョゼットもバレているという自覚はあったのか平然と迎えてくれた才人に対し驚きは無い。
 
 才人の隣に腰を下ろす二人の姿は、タバサがトリステイン魔法学院の制服、ジョゼットが修道服だ。
 
 取り敢えず、昨晩の内に伝書フクロウでトリステイン魔法学院のブリミルに連絡を入れておいたので、暫くはのんびりしても大丈夫だろう。
 
 才人の道案内の元、彼の居城に着いたのはそれから10時間の後の事。
 
 通常、ガリアからアルビオンまでは、まぁアルビオンのその時の位置にもよるが風竜の翼でも一日で辿り着けるようなものではない。
 
 それを半分以下の時間で辿り着く翼は、流石に伝説といったところか。
 
「あそこ、あの屋敷な」
 
 その広大な敷地と建物は、ガリアの王宮であるヴェルサルテイル宮殿と比べても何ら見劣りするものではない。
 
「ほう、なかなか良い所に住んでいるな」
 
「やー……、棚ぼたで貰ったようなもんだけどな。
 
 それに、余りこっちには居ないし」
 
 トートゥムの威容に驚いたのか才人の屋敷の使用人達は仕事の手を止めて窓から恐る恐るといった風体で眺めていたのだが、その背に才人の姿を確認すると慌てて玄関に向かい出迎えの用意を調える。
 
「お帰りなさいませ、サイト様」
 
 留守を預けている執事長のスティーブンスを先頭に一斉に頭を下げて才人を迎え入れる使用人一同。
 
 事前連絡の無い突然の帰宅に、従者達の間に僅かに緊張が走るが、肝心の才人は気にした様子も無く。
 
「あ、どうも。ただいまです。
 
 唐突で悪いんですけども、子供用の服を用意してもらえませんか」
 
「子供用でございますか」
 
 才人の背後に居るタバサとジョゼットを見て、
 
「ではお嬢様方、採寸致しますのでこちらに」
 
 シルフィードは見た目だけは立派な大人なので、子供とは判断されなかった。
 
「いや、その二人じゃなくて……」
 
 背後に振り返り、視線で合図すると、トートゥムの姿が幼い少女のものに変わる。
 
「コイツの服をお願いします」
 
 トートゥムの艶のある黒髪の上に手をおいて告げる。
 
 対するトートゥムは、その裸体を恥ずかしげもなく晒したまま、むしろ薄い胸を誇るように反らし、
 
「で? 晩餐のメニューは何だ?」
 
「いいから、まずは服着ろ」
 
 メイドが駆け足で持って来たガウンを羽織らせ、採寸に向かわせた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 翌日、手紙を受け取ったブリミル達が転移の魔法でやって来た時、才人は山賊退治を直談判にきた領民の訴えを聞く為、丁度出掛けようとしているところだった。
 
「なら、丁度良かったわね。ほら、コレが無いと恰好つかないでしょ」
 
 言ってヒラガ家の紋章の元となった長剣と短刀、デルフリンガーと地下水を渡す。
 
 デルフリンガーを抜きはなった才人はそれをトートゥムに向け、
 
「懐かしい顔だろ」
 
「???」
 
 人間形態の姿に見覚えは無いのか小首を傾げるような感覚が伝わってくる。
 
「六千年振りだというのに、随分と薄情な奴だな」
 
「六千年振り……? ッ!? まさかオメェ」
 
「ふん、ようやく思い出したか、ガラクタ頭め。そう、我こそが竜族の原初にして全てを司りし全韻竜の一。ヴィンダールヴの翼トートゥムだ」
 
「誰がガラクタ頭だ、この野郎! オメェなんぞ、ちょっとデカイ程度のトカゲじゃねぇか!?」
 
「ふふん、ボロ剣風情が吠えよるわ」
 
「仲悪いなぁ、お前等……」
 
 呆れたように呟き、デルフリンガーを鞘に収める。
 
「それで? 山賊退治だっけ? どうするのよ」
 
「あぁ、丁度準備が終わった所……」
 
 言っている間に才人達の前に到着したのは一頭引きの馬車だ。
 
 幌は無く、荷台には空の木箱が大量に載せられている。
 
 それだけで全てを理解したブリミルは小さく頷き、
 
「囮捜査ってわけね」
 
 そういえば才人の服はいつものパーカーではなく、平民が着ているような麻の服だ。
 
「そういう事」
 
「手伝いは?」
 
「俺一人で大丈夫だと思うけどな。暇ならトートゥムに乗って上から監視しててくれ」
 
「そうさせてもらうわ」
 
 颯爽と服を脱ぎ捨て変化を解いて竜の姿に戻るトートゥムの背に乗り込むのはブリミルを始めとしたゼロ機関の女性達。
 
 とはいえ今回は平日の為、ティファニアやギーシュといった生徒達の姿は無い。
 
 ここに居るのはブリミル、エレオノール、カトレア、サティー、タバサの四人だけだ。
 
 ナイ達も来てはいるのだが、今回は留守番をしてもらう事にした。
 
「そんじゃぁ、ちょっと行ってくるわ」
 
「ん。いってらっしゃい」
 
 手を振って見送るナイとアルに送り出され、才人は山賊が多発すると言われている街道に向けて馬車を走らせた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 屋敷から三十リーグほど離れた街道。
 
「……ここらへんの筈なんだけどなぁ」
 
 周囲は背の低い草の生えた平原で、山賊達が身を隠せそうな場所など何処にも無いと思うのだが……。
 
「臭いなぁ……」
 
 なんというかオーク鬼達のような独特の臭さがある。
 
 ……風呂とか入ってなさそうだもんなアイツ等。
 
 とはいえ、オーク鬼達が計画的に馬車を襲撃出来るとは思えない。
 
 ……だとすると、亜人達を操ってる奴が居るって事かな?
 
 考えている内に街道脇の草むらが爆発したように一気に盛り上がり、中からオーク鬼達が姿を現した。
 
「に、ににに荷物置いていけ!!」
 
 周囲を見渡すとオーク鬼達ばかりではなく、大型のトロール鬼やオグル鬼などの姿もある。
 
 ……まぁ、黒幕の方はブリミル達に任せとけば良いか。
 
「は、ははは話聞け!」
 
 自分を一瞥もしようとしない才人に業を煮やしたオーク鬼がゴツイ棍棒を振り回して才人を叩き潰そうとするが、振り抜いたと思ったオーク鬼の腕は既に地面に落ちていた。
 
「あ、あああああで?」
 
 首を傾げ、がら空きになったところにデルフリンガーの一撃が叩き込まれる。
 
 首と胴体が分かたれ、一拍の後に噴出する血飛沫。
 
 驚き、オーク鬼達が身を退く頃には才人の姿はそこには無い。
 
 ブレイドの魔法で光刃を伸ばした地下水との二刀流で、目に付いたオーク鬼達を片っ端から屠っていく。
 
 これまでこの道を通る人間は全て反撃しようともせず、怯えて逃げ惑い、自分達はそんな脆弱な人間を狩る立場だった。
 
 だというのにこの人間は恐怖など微塵も見せず、自分達を狩ろうとしている。
 
「ふごおぉおおおおお!!」
 
 ようやく自分達が攻撃されている事に気付いたオーク鬼達が迎撃の姿勢を取り始め、才人の背後にいたトロール鬼が手にした大槌を振りかぶる。――が、そこまでだ。
 
 その時点で既に地下水が口内に突き立てられていた。
 
「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ハガラース」
 
 氷の槍がトロール鬼の体内に形成され、その巨体を脳天から尻まで一気に貫き絶命させる。
 
 そこでようやく勝ち目が無い事を悟った者達から散り散りに逃げようとするのだが、上空から飛来した巨大な竜がそれを許しはしない。
 
 着地ついでに数匹のオーク鬼を踏み潰し、草むらに隠れて逃げようとした者達は草むらごと獄炎で焼き尽くす。
 
「……鬼かお前は」
 
「鬼は向こうで、我は竜だ」
 
 才人がトートゥムと会話している間に、タバサが雨をヴァリエール姉妹が土を隆起させて延焼を防ぐ。
 
 延焼が粗方治まったのを確認したブリミルはディレクトマジックを起動。
 
 すると、即座に反応があった。
 
「……何かマジックアイテムを持った奴が居るわね」
 
 ちなみに、ディレクトマジックはコモンマジックに分類される為、虚無に特化しているブリミルであっても使用が可能だ。
 
「場所は?」
 
 才人に問われたブリミルは右手で北の方を指さし、
 
「向こうの方、距離三十メイルくらい」
 
 告げると同時、才人が駆け出した。
 
「三十メイルっていうと……」
 
 刃を返したデルフリンガーを地面に突き立てて疾走。
 
「ここら辺くらい……かなッ!?」
 
 土中に隠れていた男を強引に掘り起こした。
 
「ッ!?」
 
「お、ビンゴ!」
 
 空中で手をバタつかせる男の右手には杖、左手にはまるでメガホンのようなマジックアイテムがある。
 
「なるほどなぁ……。アレでオーク鬼達を操ってたわけか」
 
 暢気に観察する才人に向け、男が呪文を唱え石で出来た槍を放つ。
 
 ――が、所詮は無駄な足掻きだ。
 
 才人がデルフリンガーを一閃させると、石の槍は粉々に砕け散り跡形も残らない。
 
 男が驚愕に目を見開いた瞬間には既に才人の身体は空中にあり、デルフリンガーを大きく振りかぶっていた。
 
「よいこら……、しょッ!!」
 
 峰打ちでの一撃。
 
 数本の骨折と共に男の意識を断ち切った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ――後日。
 
 アルビオン王キロンディニウム、ハヴィランド宮殿。
 
 彼らは今、アルビオン国王であるウェールズと謁見していた。
 
「先日、サイト殿が捕まえた男なのだが、どうもレコン・キスタの残党だったようだ。
 
 あのマジックアイテムを使って、亜人達を操りクーデターを企んでいたらしい」
 
「それは、早めに対処出来て良かったですね」
 
「あぁ、まったくだ。本当に君には頭が上がらないな……」
 
「いや、まったくの偶然ですよ」
 
 その後は一頻り適当な事を話し合い、そろそろお暇しようかという頃合いになってタバサがガリア女王としてウェールズに対し一対一の会談を申し出た。
 
 国家間での会談を邪魔しては悪いと思い、席を外す才人達。
 
 彼らの気配が消えたのを見計らい、タバサから切り出した話はウェールズの予想の斜め上をいくものであり、しかしそれを承認すればガリアとアルビオンの同盟は確実に強固なものとなる提案だった。
 
「いや……、しかし、それではガリアが」
 
「平気。妹とイザベラが居る」
 
 ウェールズは思案し、
 
「本当に、それでよろしいのですか? シャルロット女王陛下」
 
「かまわない」
 
「わかりました……。では、我々も全力で支援致しましょう」
 
「よろしく」
 
 一礼して謁見室を後にするタバサ。
 
 こうして、才人の知らない所で確実に包囲網は敷かれていくのだった。
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