魔法先生……? ネギ魔!
 
 
書いた人:U16
 
第9話
 
「……どういう事だ?」
 
 ネギの血を拭い、ベットに横たえた後でエヴァンジェリンは不服そうにネカネに問い掛ける。
 
 対するネカネは小さく溜息を吐き、
 
「……原因は昨日の戦闘だと思いますけど」
 
 魔力の暴走による反動と惑星霊魔法の後遺症。
 
 特に惑星霊魔法の使用は、確実にネギの命を削る。
 
「……使うな、と言った所で聞きはしないのだろうな」
 
「ええ……」
 
 同時に重い溜息を吐き出すエヴァンジェリンとネカネ。
 
 本来なら一日中看病していたい所であるが、エヴァンジェリンには登校地獄の呪いが掛けられており、ネギの許可がなければ学校を休む事が出来ないし、ネカネには昨日の一件の報告とヘルマンの仕事や住処を学園長に斡旋してもらわなければならない。
 
 エヴァンジェリンは茶々丸(姉)にネギを別荘に運ぶように命令し、一週間は別荘から出さない事と、その間の魔法を使用させない事を言い付けた。
 
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 授業が始まり、ネギの代わりに彼の指導教員である源・しずなが教壇に立ち、ネギの休みを告げてホームルームを開始する。
 
 ……ズル休み?
 
 ……ネギ先生。
 
 ……昨日の事、まだ気にしてんのかしら?
 
 様々な憶測が交錯する中、ホームルームが終了を迎え、同時に少女達は彼の家主であるエヴァンジェリンの元へ向かう。
 
「なあなあ、エヴァちゃん。ネギ先生どないしたん?」
 
 皆を代表する形で問い掛けた木乃香の質問に対し、エヴァンジェリンは面倒臭そうに溜息を吐き出し、
 
「……別に、朝起きたら血を吐いて倒れていただけだ。寿命が数年縮んだ程度で、1週間ほど安静にしていれば後遺症も残らんさ」
 
「そ、それって、かなり深刻な事なんじゃ……」
 
 のどかが呟くように告げると、周囲の生徒達も同意するように頷いた。
 
 対するエヴァンジェリンは唇の端を吊り上げ、
 
「ふん、早死にが嫌なら私が血を吸って従僕に加えてやるまでだ」
 
「それはそれで……」
 
 ネギが頷くとは思えない。
 
 少女達が顔を見合わせ苦笑いを浮かべている頃、階下の学園長室では、ネカネにより昨夜の事件説明が行われいた。
 
「……というわけで、現在事件の首謀者であった悪魔、ヴェルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン伯爵と共謀者スライムのすらむぃ、あめ子、ぷりんはネギの使い魔となっています」
 
 説明を聞き終えた近衛・近右衛門はヤレヤレと溜息を吐き出し、
 
「……村の皆の仇を使い魔にするとは。肝が据わっとるのう、ネギ君は」
 
 呆れと感心の入り交じった声で零し、
 
「丁度、用務員に欠員がある事じゃしな……。ヘルマン卿には用務員の仕事を頼めるかの?」
 
 爵位持ちの悪魔を用務員として使おうとする学園長の暴挙だが、当のヘルマンは別段嫌がるでもなく、
 
「いやいや、これは多大な恩赦を感謝するべきかな」
 
 言って、学園長に握手を求めた。
 
 ネカネは作業服姿で花壇の世話や、壊れた備品の修理等をするヘルマンを想像してみるが、意外と似合っているかもしれない。
 
 ちなみに、スライム娘達に関しては、人や動物を襲う事を禁止させ、基本的にはエヴァンジェリンの家か、彼女の別荘で生活する事となった。
 
 ……まあ、律儀に約束守るつもりもねぇケドナ。
 
 ……そうそう。
 
 …………。
 
 という風にして、こちらの方も一応の決着をみた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 同時刻――。エヴァンジェリンの別荘にて、二日ぶりにネギは目を覚ましていた。
 
 彼は寝惚け眼で周囲を見渡すと、頭を掻きながら、
 
「……腹減った」
 
 そしてベットから起き上がろうとした所で横から伸びた手によって遮られる。
 
 そこで初めて自分の傍らにいる人物が誰なのか気付いたネギは寝惚け眼のままでその人物が誰なのかを確認しようとし、それよりも先に差し出された水の満たされたコップを手渡された。
 
 ネギは視線をコップと手渡した人物……、茶々丸(姉)の間を数度行き来させて、ようやくそのコップが何を意味するのかを理解すると、それを受け取り中の液体を一気に呷る。
 
「……ぷはぁ」
 
 喉の渇きを潤して人心地吐いたネギは凝り固まった関節を解しながら、
 
「……で? 何で俺、別荘なんかにいるんだ?」
 
 問い掛けるネギに対し、茶々丸(姉)は簡潔にネギがこの場に運び込まれた事情を話す。
 
「マスターによれば、1週間は魔法を禁止するように、との事です」
 
 ……二日寝てたらしいから、後5日は魔法使うなって事か。
 
 倒れた理由は、おそらく惑星霊魔法の後遺症のようなものだろう。
 
 それに魔力の暴走状態の反動によるものか、全身が痛むのを自覚している。
 
「……まあ、ここで無理して障害残すもの馬鹿らしいしな」
 
 呟き、茶々丸(姉)に食事を頼むと、自らは階下の書庫へ赴き魔導書を漁る。
 
 ちなみに現在ネギの修めた魔法の数は503。
 
 やはり、司書の目を盗んで魔導書を盗み読んでいたメルディアナ魔法学校時代と比べると、誰の目も気にせずに禁書の類まで読める環境というのは、それだけで修得速度の上昇にも繋がっているようだ。
 
「……こんな事なら、もっと早く麻帆良に来てれば良かったな」
 
 誰にとはなしに呟いてみるが、後の祭りだ。
 
 こればかりはどうしようもない、とネギは数冊の本と巻物を持って書庫を出る。
 
 日当たりの良いバルコニーに来たネギが腰を降ろして魔導書のページを開くのと同時、茶々丸(姉)が食事とカモを頭に乗せたチャチャゼロを伴ってやって来た。
 
「兄貴、もう身体の具合は良いんスか?」
 
 ネギの倒れたあの日、前日にチャチャゼロの元へ呑みに行っていたカモは彼の異変に気付く事が出来なかった事を後悔していた。
 
 その事を謝るカモに対し、ネギは不思議そうに首を傾げつつ、
 
「倒れたのは俺の自業自得だし、お前が悪かった所なんぞ何処にもないだろ?」
 
 告げ、それで話は終わりと運ばれてきた料理を口に運ぶ。
 
 その後、5日間をネギは食う寝る読書三昧で過ごした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 エヴァンジェリンから事情を聞いた明日菜達は、授業終了と同時にダッシュで彼女の家を訪れていた。
 
 ログハウスに着いた彼女達は脇目も振らずに別荘に向かい、
 
「ネギッ!!」
 
 担任の名を呼び、飛び込んできた彼女達の見たものは、プールに浮かべたエアマットに寝そべり悠々と読書を楽しむネギの姿だった。
 
 生徒達の来訪に気付いたネギは、いつもの眼鏡の代わりに付けていたサングラスを外して彼女達に向き直り、
 
「よう、もう授業終わったのか?」
 
 いつもと変わらぬ様子でそう尋ねた。
 
 対する少女達は心配し過ぎた反動で呆気にとられていたが、それもエヴァンジェリンの放った魔法がネギを襲ったのを契機に我に返る事になる。
 
 放たれた魔法の射手の数は35。
 
 しかし、そのどれもがネギの元まで辿り着く事は無かった。
 
「ふん、……どれだけ回復したか見てやろう」
 
 手招きするエヴァンジェリンに対し、ネギは空中に浮き上がると、のどかに読んでいた本を渡し、軽く肩を回して、それを準備運動にすると、
 
「じゃあ、軽く流す程度でいくか……」
 
 言った直後、ネギの周囲に即座に浮かび上がる雷球。
 
 その数、8。――ちなみに最大で24矢だ。
 
 昨日までのネギが無詠唱で出せる魔法の射手の最大数は13本だったはずだ。
 
 たった一日……、否、ネギにとっては1週間だが、それでもこの成長は異常過ぎる。
 
 目を見開くエヴァンジェリンに、いつの間にか傍らまで来ていたチャチャゼロが耳打ちした。
 
「オイ、御主人。御主人ノ御主人ナ……、コノ前ノ戦闘ノ後、死ニカケタ所為デ枷ガ外レタミタイダゼ」
 
 人の身体が自らの力で自滅しないよう、通常、全力を出したつもりであっても、それは全体の30%程度の力しか出ないように無意識下で制御されているように、魔力に対しても同じような枷が無意識の内に設けられているものであるが、チャチャゼロの言葉が正しければ、ネギはその枷が外れてしまったらしい。
 
 エヴァンジェリンは不敵な笑みを浮かべると、明日菜達に下がるように命令し、
 
「ぼーや、殺すつもりでかかってこい。貴様の実力、確認させてもらう」
 
 目の色を変えて告げるエヴァンジェリン。
 
 対するネギも不敵な笑みを浮かべて、
 
「良いなそれ。――俺も全力を試せる相手が欲しかった所だ」
 
 直後、飛び交う雷と氷の魔弾。
 
 互いに相殺しあう中、術者達は既に別の場所に移動して次なる術式を組み立てている。
 
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!
 
 大気に宿りし全ての精霊達よ、我が絶対の力と化せ!
 
 天と地を従えし魔流と化し触れる物全てを無へと帰せ!!
 
 “魔覇・皇龍盡”!!」
 
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!
 
 汝、黒き魂にて我を清めたもう!
 
 おお冥王よ、至高なる者の強き集いの内に、我は死の凍嵐を身に纏いたり!
 
 今、新たなる契りによる氷雪の力束ねん!!
 
 ――“絶対零度の氷槍”!!」
 
 ネギの放つ滅びの力を含んだ風とエヴァンジェリンの放つ全てを砕く凍気の槍が激突。
 
 互いの魔法が喰らい合い、消滅し合いながらも、別荘のある異空間内を、その余波で満たす。
 
 荒れ狂う凍気を含んだ暴風に飛ばされぬようにと、刹那が皆を守る為に結界を敷くが、それも余波を受けただけで軋みを挙げる。
 
「クッ!? これが……、本気のエヴァンジェリンさんとネギ先生――」
 
 割り込む余裕などありはしない。
 
 しかし、一見、拮抗しているように見える魔法の撃ち合いだが、現実にはエヴァンジェリンの方が僅かに押している。
 
「くくく……、どうした? ぼーや。その程度で限界か?」
 
 嘲りを含んだエヴァンジェリンの挑発にネギは奥歯を噛み締めながら、現状を打開する為の新たな詠唱に入るが、ネギの集中力の途切れた瞬間に、“絶対零度の氷槍”が“魔覇・皇龍盡”を飲み込んで一気にネギへと襲い掛かった。
 
 如何にネギの障壁が強固であると言っても、“絶対零度の氷槍”と“魔覇・皇龍盡”をまともに喰らっては無事で済まない。
 
 だというのにも関わらず、ネギは慌る事無く詠唱を紡いでいく。
 
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!!
 
 我が内なる神の導きにのみ我は従う!
 
 大いなる波よ、すべてを飲みつくし怒濤となって逆巻け! “魔波の逆流”!」
 
 ネギが怒濤の勢いで迫る氷嵐に呑み込まれんとした瞬間、彼の唱えていた魔法が完成。
 
 その効果は一瞬で発動された。
 
 まるで、鏡に映したかのように、今度はエヴァンジェリンに向けて氷嵐が襲い掛かる。
 
 しかも、ネギの魔力を加えられた分、先程よりも更に威力と速度が増している。
 
「チッ!? 反射魔法の類か!」
 
 それにしては、効果が凶悪過ぎるが……、そんな事を抗議している暇も余裕もなく、エヴァンジェリンは力の奔流に呑み込まれた。
 
「エヴァちゃん!?」
 
 生徒達の悲鳴が聞こえてくる中、それでもネギはまだ戦闘態勢を崩さない。
 
 何処からか飛来した無数の蝙蝠達がネギの背後に集い、人の形を取る。
 
 一瞬にも満たない時間でそれはエヴァンジェリンの形に戻ると、右手の五指に氷の爪を宿してネギの元へ振り下ろした。
 
 だが、それはネギも予測していた事だ。
 
 アレくらいで死ぬようなら、彼女は今日まで生きてこれはしなかっただろう。
 
 振り向きざまに用意していた遅延呪文を解放。
 
 炎を纏った拳に更に魔力を上乗せして殺傷力を高めた左手を突き上げる。
 
 ――“大敵”!!
 
 激突ッ!?
 
 大気爆発が生じ、ネギとエヴァンジェリンの距離が強制的に引き離された。
 
 至近距離で大威力の魔法が衝突したのだ。二人共無傷というわけではなく、ネギの左腕は大きく裂けているし、エヴァンジェリンは腹に大きな風穴を空けているような状態だ。
 
 互いに重傷を負い、怒りに我を忘れた二人が同時に呪文の詠唱に入る。
 
「いけない!? このままでは、どちらかが死ぬまで続けかねません!?」
 
 刹那の言葉に呆然と観戦していた皆が一斉に我に返る。
 
「そ、そんな!?」
 
「そうだ! アスナなら魔法効かないから、二人を停められるんじゃない!?」
 
 ハルナの提案に皆の視線が明日菜に寄せられるが、当の明日菜は困った表情で、
 
「どうやって、あんな上まで行けっていうのよ!?」
 
 明日菜の言葉通り、現在ネギとエヴァンジェリンの戦闘が行われているのは彼女達の居る場所からは見上げるような上空だ。
 
 そんな上空まで行ける技能の持ち主など、この場には刹那か茶々丸くらいしか居ない。
 
 だが、だからと言って彼女達が二人掛かりでも、あの二人の戦いを停めるのは難しいだろうし、最悪、被害が悪化する可能性も高い。
 
 手詰まりかと思われたその時、救いの手は意外な所から差し出された。
 
 割って入った第三者の手により、明日菜の姿がその場から消える。
 
 ネギとエヴァンジェリンが近距離から“雷の暴風”と“闇の吹雪”を撃ち合う中、その衝突点に突如姿を現した明日菜。
 
 彼女の完全魔法無効化能力によって互いの魔法が打ち消された事により、我に返ったネギとエヴァンジェリンが互いに矛を収め地上に降り立つ。
 
「まったく、やり過ぎよ二人共。何事も程々にしないと……」
 
 そう告げるのは、ネギの姉であるネカネ・スプリングフィールドだ。
 
 懇々と説教を続けるネカネの耳に、か細い少女の悲鳴と直後に高空から水面に落下したような盛大な水音。続いてその場に居た少女達のざわめきが聞こえてきたが、彼女はそれら全てを華麗にスルーして説教を続ける。
 
 ……なあ、今の悲鳴って神楽坂のか?
 
 ……それしか考えられまい? しかし、ここの海はそれ程深くないからな。あの高度から落下すれば、死ぬ可能性もあるぞ。
 
 エヴァンジェリンの念話を聞いたネギは暫し考え、
 
 ……まあ、その程度で死ぬような奴でもないけどな。
 
 その思考を肯定するように、ずぶ濡れになった明日菜がダッシュでネカネの元にやって来た。
 
「いきなり、何するんですか!?」
 
 その目尻に水滴が溜まっているのは、海で濡れたからなのか? それとも恐怖で泣きそうになっているのか? は不明だが、ネカネは明日菜の抗議に対して何時もと同じ調子を崩す事無く、
 
「あらあら、ゴメンなさい。急いでいたものだから、つい」
 
 微笑を浮かべたままでありながらも、それ以上の追求は自らの死を悟らせる程の威圧感を秘めたネカネに対し、明日菜は素直に引き下がった。
 
 ……賢明な判断だよ。
 
 内心で明日菜に称賛を送りつつ、傷ついた左腕を癒す為に呪文の詠唱を開始する。
 
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル……。慈悲深き方、癒しの神よ。心正しき者に恵みを与え給え。“優愛の癒し手”」
 
 呪文の発動と同時、下手をすれば一生動かないのではないか? と思える程の深手が一瞬で傷跡一つ残さずに癒されてしまった。
 
 皆が驚嘆の声を挙げる中、最も興味深そうな眼差しを向けているのは近衛・木乃香だ。
 
 ネギは彼女へ視線を向けると、
 
「いいか? 近衛。お前の治癒術師としての潜在能力は俺以上のもんがある。
 
 この程度で感心してんじゃねえぞ」
 
「はいな!」
 
 彼の言葉を受け、木乃香は心機一転といった感じで気合いを入れ直す。
 
「つーか、ヘルマンのおっさんが言うには、俺の村の人達の石化を解除出来る可能性があるとしたら、お前くらいしかいないって言ってたからな。
 
 悪いけど、その時は力貸してもらうぞ?」
 
 ――その代わり、世界一の治癒術師になるまでは俺が鍛えてやる。とネギは断言する。
 
 それを優しい眼差しで一同が見守る中、ネギは突如夕映に向き直り、
 
「ちなみに綾瀬。――お前は二代目魔砲少女を目指せよ?」
 
「何度も言ってますが、謹んでお断りするです」
 
 夕映はそう返すが、ネギは諦めたわけではない。
 
 学校の成績は一向に奮わないが、こと魔法関連に関しての知識の吸収は学校の成績上位者である木乃香をも凌ぐ逸材だ。
 
 ……潜在的な魔力値も平均より上だしな。鍛えれば面白いかもしれねぇ。
 
 内心でほくそ笑みながら、綾瀬・夕映改造計画を立案するネギ。
 
 一見、急成長を見せ、ライバルの小太郎を大きく引き離したかのように見えたネギだが、翌日全身を諫なむ激痛によってベットから出ることさえ叶わなかった。
 
「……まあ、言ってみれば魔力の暴走状態が常時続いているようなものだからな。
 
 まずは、それに耐えられる身体作りから始めるしかあるまい?」
 
 意地の悪い笑みを浮かべながら告げるエヴァンジェリンだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 それから(現実時間)で数日の日が過ぎ、学祭が直前に迫った連休の事。
 
 事件は麻帆良学園・教職員宿舎で起こった。
 
 久しぶりに実家に帰ってきた裕奈が押入の中の整理をしていると、懐かしいものが出てきた。
 
「うわぁ♪ よくコレで遊んだよねー」
 
 そう告げる彼女の手に握られている物。
 
 細い棒の先に星が付けられた玩具だ。
 
「おとーさん! おとーさん!」
 
 廊下を走り父親の書斎に飛び込む。
 
「ほらほら、見て! こんなの出てきた!」
 
 ノックもせずに飛び込んできた娘から魔法関連の資料を隠すようにして振り向き、
 
「どうしたんだい? ゆーな」
 
 告げ、娘の手にしている物を見て、懐かしさに目を細める。
 
 亡き妻が、娘に渡した初心者用の魔法の杖だ。
 
 父親が母親との思い出を憶えていた事が嬉しいのか? 無邪気に杖を振り回す裕奈。
 
「えーと……、昔おかーさんに教えてもらった呪文なんだったっけ?」
 
 小首を傾げ、記憶の片隅から思い出を引き出そうとする娘を明石教授は微笑ましげな眼差しで見つめる。
 
「そうそう、思い出した! 確か……、ぷらくでびぎなる、あーるですかっとぉ!!」
 
 告げ、杖を振り下ろした瞬間、拳大の火球が撃ち出された。
 
 火球は部屋の中に積み上げられた本に命中に、点火される。
 
「……へ?」
 
 突然の出来事に間抜けな声を挙げる裕奈に対し、明石教授は焦った顔色で呪文の詠唱を開始、小規模の水流を撃ち出して鎮火に成功した。
 
 本来ならば、消化器でも取りに行くべきだったのだろうが、この部屋にある本の中には図書館島から借りてきた稀少な魔導書もある為、急ぎの鎮火が必要だったのだ。
 
「あ、あの……。おとーさん?」
 
 恐る恐るといった風体で呼びかけてくる娘に対し、明石教授は暫く考えた後、
 
「ゆーな……。大事なお話をしようか」
 
 真剣な表情でそう告げた。
 
 そして場所をリビングに移し、そこで裕奈が聞かされたのは、自分の両親が本物の魔法使いである事。
 
 この学園の中には、そういった魔法使い達が他にも何人かいる事。
 
 余りに突拍子もない話に、最初、裕奈は信じられずにいたが、実際に父親が目の前で魔法を見せてくれた以上、信じるしかなかった。
 
「……それで、ゆーなはどうしたい?」
 
「え……? どうするって?」
 
 問い返す娘に対し、明石教授は小さく息を吐き出すと、
 
「さっきの火弾を見るに、ゆーなには魔法の才能がある。
 
 ゆーなが望むなら、ちゃんとした魔法を学んでみるのも良いしね」
 
 父の言う事に、裕奈は暫く考え、
 
「ねえ、おとーさん。私が魔法使いになったら、おとーさんの仕事手伝える?」
 
 娘からの質問に、明石教授は苦笑いを浮かべながらもYes.と答えた。
 
「うん。じゃあ、私、魔法使いやる!」
 
 椅子を蹴倒して立ち上がり、握り拳で宣言する。
 
 明石教授は、それを優しい眼差しで見つめていたが、やがて自分も立ち上がり、
 
「じゃあ、出かけようか?」
 
「え? 何処行くの?」
 
 突然の展開に小首を傾げる裕奈に、明石教授は悪戯を企んでいる子供のような笑みを浮かべると、
 
「ゆーなの師匠になる人の元にだよ」
 
「……えー!? おとーさんが教えてくれるんじゃないの!?」
 
 裕奈は抗議の声を挙げるが、明石教授は肩を竦め、
 
「そんな事言われてもね、父さん仕事が色々忙しいし」
 
 流石に我が侭を言って、父に迷惑を掛けるのは忍びないと思ったのか? 裕奈は潔く折れた。
 
 そして10分程で準備を完了させ、父と共に出かける。
 
 向かった先は市街地から離れた場所に建つ一軒のログハウス。
 
 呼び鈴代わりのカウベルを鳴らすと、中から現れたのは裕奈も良く知る一人の少女。
 
「いらっしゃいませ。本日はどのような御用件でしょう? プロフェッサー・明石、それと裕奈さん」
 
「……え? ここ茶々丸さん家?」
 
 頭にクエスチョンマークを幾つも浮かび上がらせる裕奈を苦笑いしながら見つめつつ、明石教授は茶々丸に、今日この家を訪れた用件を切り出した。
 
「ネギ君に用があって来たんだけど、――彼はいるかな?」
 
「ハイマスターでしたら、少し席を外しておられますが……」
 
 目配せして裕奈の存在を気にする茶々丸に、明石教授はウインクを一つ送り、
 
「あぁ、ゆーななら大丈夫だよ。もう、魔法の事は知ってるから」
 
 その言葉を聞いた茶々丸は小さく頷くと、明石父子を家に招き入れ、
 
「では、こちらにどうぞ」
 
 先導して、地下室へ向かう。
 
「ねえ、茶々丸さんも魔法使いの人なの?」
 
 道すがら裕奈からの問い掛けに、茶々丸は首を振り、
 
「いいえ、私は魔法使いではなく“魔法使いの従者”です」
 
「……従者?」
 
「分かりやすく言うと、パートナーみたいなものかな? 母さんも父さんの従者だったんだぞ」
 
「へー」
 
 そんな会話をしている内に、一行は地下室へと辿り着く。
 
 茶々丸に促されるまま転移魔法陣を使い、レーベンスシュルト城へやって来た裕奈は当然の如く驚きの声を挙げた。
 
「何コレ――ッ!?」
 
 流石に、ここまで大規模な場所は想定していなかったのか? 傍らの明石教授も目を見開いて驚きを露わにし、
 
「凄いな、これは……」
 
「どうぞ、こちらです」
 
 そして、二人が茶々丸に案内されてやって来た場所では、明日菜、刹那、古菲、楓、アーニャ、高音、小太郎の7人が入り乱れた乱戦を行っており、そこから離れたテーブルではネギを講師に、木乃香、のどか、夕映、愛衣が勉強会を開いていた。
 
 そんな中、明石父子がやって来た事に最初に気付いたのは、明日菜達の戦闘訓練を見学していたハルナと朝倉だ。
 
「あれ? ゆーな、とオジさん。……どうしたの? こんな所で」
 
 朝倉が尋ねるが、裕奈はその質問には答えず、逆に彼女に迫る勢いで、
 
「ちょ!? 何で皆こんな所でバタバタやってるの!? もしかしてクラスメイト全員が魔法使いで知らないの私だけ――!?」
 
「まあまあ、落ち着こな裕奈」
 
 背後から小槌で裕奈の頭を殴って彼女の暴走を治めたのは木乃香だ。
 
 見れば、彼女達の来訪に気付いたネギ達が、集まってきていた。
 
「こりゃまた珍しい客が来たもんだ……」
 
 そうネギが告げ、明石達に席を奨めて自らも腰を降ろす。
 
 茶々丸(姉)の淹れてくれたアイスティーで喉を潤し、ネギは明石教授に話を促した。
 
「単刀直入に言おう。――ネギ君、ゆーなを君の弟子にしてもらえないかな?」
 
「自分でやれ」
 
 即答で答えるネギに、明石教授は苦笑を浮かべ、
 
「いやー、最近は無駄に忙しくてね」
 
 例えば……、
 
「修学旅行の一件。ヘルマン氏の襲撃」
 
 その二つとも、ネギが深く関わった事件だ。
 
 明石教授は笑みを収めた真剣な表情で、
 
「本人は自覚していないようだけど、天ヶ崎さんの場合はフェイト・アーウェルンクスと名乗る少年に上手い事利用さられていた感があるし、ヘルマン氏の場合も直接は確認されてはいないが、彼の姿がチラホラと見え隠れしていてね……」
 
 それはネギにとっても知りたい情報の一つだ。
 
 ヘルマンから得た情報によると、どうもネギと敵対関係になりそうな組織があるらしい。
 
 ネギは暫くの逡巡の後、大きく溜息を吐き出し、
 
「しゃーねえか……。交換条件として、あの白髪野郎の情報の提供でどうよ?」
 
「うん、契約成立だね」
 
 明石はネギの提案を躊躇い無く承諾した。
 
 二人が相談している間、明日菜達に事情を聞いていた裕奈を呼び寄せると、明石教授はネギへの弟子入りの件を伝え、
 
「じゃあ、ゆーな。ちゃんとネギ君の言うことを聞くんだよ」
 
「まあ今後は、担任としてだけじゃなく、師匠としても俺の事を敬え」
 
 父の言うことに頷き返し、ネギに対しては、
 
「いやあ、実は担任としても敬ってなかったり♪」
 
「満面の笑顔で言ってんじゃねぇ!」
 
 ともあれ、新しい弟子を得たネギ達は、そのまま裕奈の歓迎会へと雪崩れ込んだ。
 
 
 
 
 
 
 
  
 
 
 それから現実時間で数日後の事……。
 
 広場の中央に置かれた空き缶に向け、夕映が呪文を唱えながら練習用の杖を振るう。
 
「プラクテ・ビキ・ナル――、倒れるですッ!!」
 
 途端、空き缶が弾かれるように飛んだ。
 
「おぉ――!!」
 
 周囲から沸き上がる歓声に照れる夕映。
 
「まあ、綾瀬はもう魔法の射手までマスターしてるからな。
 
 このレベルの魔法失敗するようなら、地獄の猛特訓させるとこだけど……」
 
 ネギの呟きに、心底成功して良かったと思う夕映だが、そんな彼女の心境などつゆ知らず、ネギは傍らに立つ裕奈に声を掛ける。
 
「手本としては文句無しだな……。んじゃあ次、明石やってみろ」
 
「うーし!」
 
 気合い充分な裕奈は、母親の形見である初心者用の練習杖を握りしめ、
 
「プラクテ・ビキ・ナル――、倒れろッ!!」
 
「ヘグッ!?」
 
 何故か隣にいたネギがスッ転んだ。
 
 ネギは思い切り痛打した頭を押さえながら、小首を傾げている裕奈に詰め寄り、
 
「何しやがる!?」
 
「え? ……あれー? おかしいなぁ」
 
「おかし過ぎるだろうが!」
 
 両親共に魔法使いのため、魔力の素養に関しては問題ない裕奈だが、魔法は発動するのに何故か制御に関しては下手クソで、未だ完全に成功した試しは殆ど無い。
 
 ネギがどうしたもんか? と頭を悩ましていると、ネカネに伴われた来客がこの場を訪れた。
 
「ネギ君、元気してるー?」
 
 元気良く挨拶するのは、ボリュームのある金髪の女性。
 
 年齢はネカネと同じくらいだろうか?
 
 メルディアナ魔法学校の卒業生で、現在は麻帆良学園において魔法先生や魔法生徒達から依頼を受けてマジックアイテムを制作する錬金術師。
 
 名をマルローネ・ザールブルグ。仲の良い者達からは、マリーの愛称で呼ばれる女性である。
 
「マリーじゃねえか? ……どうした、仕事の依頼か?」
 
 錬金術の合成に使う素材。その調達をマルローネはよくネギ達に頼んでいた。
 
 だが、今回はどうやら違うようで、
 
「ううん。今日はネカネに頼まれてた物を届けに来ただけよ」
 
「さよけ」
 
 言って、生徒達に向き直り、彼女の事を紹介する。
 
「まあ、アレだ。彼女の本性教えると営業妨害になるんで詳しい事は言わねえけど、商品が爆発したりとか、死人が出たとかの噂はまだ聞いた事がないから、多分、利用しても大丈夫だと思うぞ?」
 
「うーにぃー!!」
 
 叫び、ネギにイガ付きの栗を押し付けた。
 
「痛て、いてててて……!! つーか、いつも言ってんだろうが!? こりゃ、ウニじゃなくてクリだ!!」
 
 ネギの抗議を無視して、マルローネは視線を裕奈に向け、
 
「さっきの彼女の魔法見てたけど、良いアイテムあるわよ? 今ならお安くしとくけど?」
 
「どんなアイテムだよ?」
 
 商売人モードに入ったマルローネにネギは胡散臭そうな視線を向けながら問い掛ける。
 
「――魔法銃」
 
「骨董魔法具じゃねえか!?」
 
 珍しい代物だ。それ故、値段もそれなりに張る。
 
「しかも、私の改良済み」
 
「骨董品の価値無くなった!?」
 
 叫き立てるネギだが、即決で購入を決定する。
 
 ……もしもの時、味方の中に敵が居たんじゃやってらんねぇしな。
 
「おぉ、気張るわね」
 
「代金は明石教授にツケといてくれ」
 
 裕奈と明石の関係を教え、マルローネを納得させ、
 
「それで、姉ちゃんは一体何買ったんだ?」
 
 ネカネに問い掛けてみると、彼女は懐から赤と青のあめ玉が入ったガラスの小瓶を取り出し、
 
「これよ」
 
 言って、ネギの口に向け青いあめ玉を放り込んだ。
 
 途端に巻き起こる小さな大気爆発と共に、ネギの身体が5,6歳程度にまで若返る。
 
「な、何だ!? 一体?」
 
 わけが分からずに狼狽えるネギだが、周囲の少女達は突如若返ったネギを見て黄色い歓声を挙げた。
 
「きゃ――ッ!! ネギ先生可愛い!!」
 
 生徒達にもみくちゃにされるネギだが、背後から強烈なプレッシャーを感じ取り、“風花・風障壁”を使用して生徒達を弾き飛ばすと後ろを振り返り、……即座に後悔した。
 
 そこに居たのは、彼の姉であるネカネ・スプリングフィールドだ。
 
 ……但し、その目は血走っており、呼吸も荒く、何故か鼻から血が滴り落ちている。
 
「ね、……ネカネ姉ちゃん?」
 
 恐怖に後ずさりしながら、姉の名前を呼んでみると、ネカネは唇を三日月型に吊り上げ、
 
「ふふふ……、昔みたいにお姉ちゃんって呼んでちょうだい♪」
 
 何故だか貞操のピンチな気がした。
 
 ネギは何とかこの場を離れる為、目眩ましの呪文を使い即座に離脱した。
 
 
 
 
 
 
 
 
   
 
 別荘から現実世界に戻ってきたネギは、そのまま家を脱出すると人目を見通しの良い道路を通るのを避け、林の中を走り抜けて市街地に向かった。
 
 服装自体は、ハーフパンツにパーカー姿であった為、小さくなった今はブカブカではあるが、その格好自体に違和感は無いのだが、流石に靴まではそうはいかず、別荘から脱出する際に脱げてしまった。
 
「ったく!? 一体何がしたいんだ? 姉ちゃんは!?」
 
 舌打ちし、背後から追跡者がいないかを気にしながら走っていたネギは、前方不注意で前を歩いていた人にぶつかってしまった。
 
 その衝撃でネギは尻餅をついてしまうが、ネギの身体が小さくなっている事が幸いしたのか? 相手の女性に怪我はないようだった。
 
 ――が、問題はそのぶつかった女性がネギの知る人物だったという事だ。
 
「あらあら? 大丈夫ですの?」
 
 聞き覚えのある声にネギが視線を上に向けると、そこには彼の受け持つクラスの学級委員長、雪広・あやかが心配そうな眼差しでこちらを見つめていた。
 
 内心、ネギは焦りを感じるが、何とかこの場を乗り切ろうと、普段の自分とは正逆の態度で対応する。
 
「あ、……はい。大丈夫です」
 
 あやかの差し出してくれた手を取って立ち上がり、服に付いた埃を払うと、
 
「お姉さんは怪我とかしてませんか?」
 
 礼儀正しく問い掛けてみる。
 
 ……が、それが裏目に出た。
 
 可愛らしい容姿。礼儀正しい態度。それら全てがショタコン委員長こと、雪広・あやかのストレートど真ん中だ。
 
 あやかは目を輝かせながら、
 
「ええ、もう全然怪我なんかしてませんのよ」
 
 言って、ネギの方に怪我が無いかを確認しようとして訝しげに眉を顰める。
 
 ネカネの魔手から逃れる為、林の中を駆け抜けてきたネギの服は所々を枝で引っ掻いて解れ、木の葉が付着している上に、足は裸足の状態だ。
 
 しかも、着ている服は明らかにサイズがあっていない。
 
 鼻の垂れた悪ガキが、このような格好をしていた所で何とも思わないが、礼儀正しい子供がこんな格好をしているのは、吝かでない理由があるのだろう。
 
 ……もしや、いわれのない虐待を受けていて、そこから逃げ出して来たとか!?
 
 勝手にそう結論したあやかはネギの小さな身体を力一杯抱き締め、
 
「……今まで、辛かったですわね。――でも、もう大丈夫ですのよ。
 
 後は、この雪広・あやかにお任せなさい!!」
 
「……え? あの……、ちょっと」
 
 決意新たにネギの手を取ったまま立ち上がり、
 
「さあ、そうと決まれば、まずは着替えからですわ! 丁度あそこに幼児服専門店がありますし!」
 
 ネギの手を引いて、強引に店に入って行った。
 
 そこであやかの見繕ったブランド物の服に着替えたネギは、試着室の中で溜息を吐き出し、
 
 ……高そうな服だな。
 
 値札を見て、驚きに目を見開く。
 
 ……お、俺の給料の半分が飛ぶじゃねえか!?
 
「あ、あのー……」
 
 試着室から、恐る恐る顔を出し、
 
「ボク、こんな高そうな服買うお金持ってないんですけど……」
 
 申し訳無さそうに告げると、あやかは何を馬鹿な、というような表情で、
 
「子供がそんな気遣いは無用ですのよ」
 
 ネギの頭を撫で、店員を呼んでカードで支払いを済ませる。
 
 その後、店を出た二人は、学祭の準備で賑わい始めている出店を見て回りながらぶらついていると、ネギを探して走り回っていた明日菜と遭遇した。
 
「いいんちょ! この辺でネギに似た5,6歳の子供見なかった!? ……って、いた!!」
 
 明日菜の声に驚き、怯えるようにあやかの背後に身を隠すネギ。
 
「ほら、さっさと帰るわよ」
 
 明日菜が手を差し出すが、対するネギは嫌がるように、あやかのスカートをキュッと握りしめ、目尻に涙を溜めて上目遣いで彼女を見つめる。
 
 その表情に一瞬で陥落したあやかは、明日菜の差し出す手を遮るように立ちふさがり、
 
「どのような事情がお有りか知りませんが、この子も嫌がっている様子。
 
 ……どうでしょう? アスナさん。ここはもう暫く私に、この子を預けてみてはどうかしら?」
 
 あやかの提案に明日菜はどうしたものか? と助け船を求めるように視線をネギに向けると、そこではあやかからは見えない角度で、皮肉げな笑みを浮かべ己の手指の爪を気にするような仕草をしたネギが、
 
“――言葉の裏には針千本。千の偽り、万の嘘。……お前、ボクに釣られてみる?”
 
 そんな念話が明日菜に届いた。
 
 ……こ、コイツ、いいんちょ騙して!?
 
 力ずくでネギを捕まえようとする明日菜だが、その手をあやかに掴み取られ投げ飛ばされる。
 
 ――雪広・あやか流合気柔術・雪中花!!
 
 明日菜はネギ達との修行により格段とレベルアップしている筈であるが、ネギに小馬鹿にされて逆上しているのと不意打ちという事もあり、あっさりと宙を舞い背中から地面に叩きつけられる。
 
「痛たたたた……」
 
「ごめんなさいアスナさん。……ですが、この子の幸せの為ならば、この雪広・あやか! 世界を敵にまわす覚悟がありますわ!!」
 
 ……だ、騙されてる! 騙されてるわよ、バカいんちょ!!
 
 明日菜が痛みに悶えている隙に、あやかはネギの手を取ってその場から離脱した。
 
 ……あぁ、これが愛の逃避行ですのね!
 
 ……何とか、薬の効き目が切れるまで逃げ切らねえとな。
 
 様々な思惑が絡み合う中、ネギの逃走劇は続く。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 しかし、ネギ達の行く先々に現れる関係者達が、尽く彼らの行く手を遮ろうとする。
 
 的確にこちらの動きを読む敵の配置にネギは内心で舌打ちし、
 
 ……宮崎か!
 
 のどかのアーティファクト“イドの絵日記”の能力は名前を知る相手の思考を読むこと。
 
 それを使用すれば、こちらの行動を予測するなど容易い事だ。
 
 そして今、ネギとあやかの眼前に立ちふさがるのは刹那と真名の二人。
 
「……桜咲さん、龍宮さん。貴女達まで」
 
 もはや幾度目かになるクラスメイトの妨害にあやかは眉を顰める。
 
 対する刹那は心底申し訳無さそうな表情で、
 
「すみません、雪広さん……。こちらにも、どうしても引けない理由がありまして」
 
「悪いな委員長。これも仕事でね……」
 
 ……龍宮は金。桜咲は近衛を人質にされたって所か。――形振り構ってねえな姉ちゃん!
 
 そうなってくると、あやかの存在はむしろネギにとっては足手まといだ。
 
 逃げる事は不可能。どんな策略を張り巡らそうとも、相手側にのどかが居る以上、裏をかくこと等出来よう筈もない。
 
 ならばネギに残された手段はただ一つ。
 
 ネギはあやかと繋いでいた手を離すと、
 
「色々ありがとう、あやかお姉ちゃん」
 
 儚げな笑みを浮かべ、
 
「巻き込んじゃってごめんなさい。……でも、とっても楽しかったです」
 
 健気にもそう告げるネギ。そんな彼を引き留めるようにあやかは腰を落としてネギと視線を合わせ、
 
「大丈夫ですのよ。この私が本気になれば、刺客の10人や20人くらい――」
 
「ううん。……もう、これ以上迷惑掛けられないから。
 
 ――さようなら」
 
 ネギが翳した小さな掌から眠気を誘う香りが漂い、あやかの意識が闇に落ちた。 
 
 倒れ伏すあやかを受け止めると、ネギは彼女をそのまま地面に横たえ、
 
「……さて、と。これで演技は終了」
 
 あどけない顔に獰猛な笑みを浮かべ、
 
「言っとくが、ここからは最初からクライマックスだぜ!」
 
 ネギの背後に赤鬼のイマジンが見えたような気がした。
 
 
 
 
 
 
 
 
  
 
 次にあやかが目を覚ました時、彼女の身体はベンチに横たえられており、その傍らには全身のそこかしこに生傷や青痣を作り、とても疲れた風体のネギが烏龍茶の缶を片手に座っていた。
 
「……ネギ先生?」
 
 暫くは意識の混濁からボーとしていたあやかだが、最後に見た光景を思い出して周囲を見渡し、
 
「あの子は!? あの子供はどうしたのですか!?」
 
 取り乱した様子で問うあやかに対し、ネギはお茶の缶から口を離し、
 
「あぁ、弟ならちゃんと空港までちゃんと送っていったぞ」
 
「空港……?」
 
 そういえば、何故あの少年がクラスメイト達に追われていたのか? 理由を聞いていなかった事を思い出したあやかはネギにその事を問い掛けてみた。
 
 ネギによると、彼の弟であるナギ少年は、今日イギリスに帰国する予定であったのだが、帰りたくなくて逃げ出したのだと言う。
 
 それを探すため、明日菜達の手を借りたらしい。
 
「……そうでしたの」
 
 見るからに気落ちした様子のあやかにネギは肩を竦め、
 
「まあ、学祭の頃にはまた来るって言ってたから、その時は面倒見てやってくれ。
 
 アイツもお前の事、気に入ってたみたいだし」
 
 その言葉を聞いたあやかは一瞬で気を取り直し、
 
「そういう事でしたら、この雪広・あやかにお任せ下さい!
 
 ……こうしてはいられませんは!? ナギ少年に喜んでいただく為にも、より良い学祭にする為、尽力しなければ!!」
 
 決意新たに立ち上がり、ネギに別れの言葉を告げると、ダッシュでその場を去っていった。
 
 ようやく一息吐いたネギは、大きく息を吐き出してから背後に視線を向ける。
 
 ……そこに転がっているのは屍の山だ。
 
 時折、呻き声を挙げる教え子の少女達を気怠げに見つめつつ、ネギは溜息を吐き出し、
 
「……もしかして、学祭になったら、俺またあの姿にならなきゃならないのか?」
 
 面倒臭そうに呟きながらも、
 
 ……雪広と一緒なら、色々と奢ってもらえるから別に良いか。
 
 と結論して、ベンチから立ち上がり家路へと向かった。
 
「ちょ、ちょっと!? せめて私達の怪我くらい治療していきなさいよ――!」
 
「ネギ老師、容赦なさ過ぎアル……」
 
「ってか、強すぎない? ネギ先生」
 
 夕暮れの公園に生徒達の声が虚しく溶けていった……。
 
 
 
 
 
 
  
 
  
 
 翌日から、学園祭の準備に異常な盛り上がりをみせるあやかに触発されるように、滞り無く準備が進んでいく中、学祭前日にネギは学園長から呼び出しを受け世界樹前広場に来ていた。
 
 彼と共に広場に向かうのは、エヴァンジェリン、茶々丸、明日菜、木乃香、刹那、のどか、夕映、ハルナ、楓、古菲、裕奈、さよの総勢13人だ。
 
「……っていうか、クラスの半数近くも抜け出してきて良かったのかしら?」
 
「仕方ねえだろ。学園長のジジイが関係者全員連れて来いっていうんだから」
 
 ぼやきながらも世界樹前広場まで到着した時、周囲に人払いの結界が張られている事に気付き一同は警戒を露わにする。
 
 だが、彼らを待ち受けていたのは敵ではなく、この学園に勤める魔法先生や魔法生徒達だった。
 
「お……、ネギ君。待っとったぞ」
 
 学園長やタカミチ、ネカネ、小太郎、アーニャといった顔見知りの者や、初めて見る魔法先生、更には千草やヘルマンの姿まである。
 
 裕奈が久しぶりに会う父親に抱き付き、ネギが知り合い達に気軽に挨拶しあう中、彼は訝しげに眉を顰め、
 
「……何やってんだ? 春日」
 
 呼びかけられたシスターは身体を強張らせながらもネギから視線を逸らし、
 
「い、いえいえいえいえ、私、美空などという人ではありませんよ? 見てのとおりの通りすがりのシスターでして」
 
「後で色々と話し聞かせてもらおうか?」
 
 彼の話を聞かせてもらうというのは、砲撃をブチかますと同義語であると風の噂に聞いた事のある美空は顔を青ざめさせて悲鳴を挙げる。
 
 そんなネギと生徒とのコミニケーションが一段落着くのを見計らい、学園長が本題を切り出す。
 
 学園長が言うには、22年に一度の周期で世界樹から魔力が満ちあふれ、人の心に働きかけるような願い事、……つまり、告白などは異常ともいえる成功率を叩き出すらしい。
 
 人の心を強制的に束縛するのは魔法使いの本義に反するという事で、ネギ達には学祭期間中、世界樹周辺の魔力溜まり6箇所での告白阻止が命じられた。
 
 しかし、学園長の話はそれで終わったわけではない。――むしろ、これからが本番とも言える。
 
「さて、今回の学祭期間中、本国の方から査察が入る事になってな」
 
 傍らに立つ葛葉・刀子に説明を促す。
 
「査察の目的は、ネギ・スプリングフィールド先生と、その周辺人物がどれ程の危険人物であるかの見極めと思われます」
 
「修学旅行、ヘルマン氏の襲撃と派手な事件が続いたからの……。
 
 流石に本国の方にまで、ネギ君の名前が知れ渡ったという事じゃ」
 
 対するネギは面倒臭そうに溜息を吐き出し、
 
「暇な奴らだなぁ……」
 
 と呟く。
 
「しかしだねネギ先生。――君が保有する戦力はハッキリと言って異常過ぎる」
 
 口を挟んできたのは眼鏡を掛けた黒人の教師、ガンドルフィーニだ。
 
「元、600万$の賞金首“闇の福音”エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、伯爵級悪魔のヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン氏を使い魔に、更には関西呪術協会の天ヶ崎・千草先生を呪いによって服従させ、“メルディアナ魔法学校のスピード狂”アンナ・ユーリエウナ・ココロウァ君を従者に、“偉大なる魔法使い”ネカネ・スプリングフィールド女史を姉に持ち、才気に溢れる学園長のお孫さんや明石教授の娘さんを筆頭に多数の弟子を取っているだけでなく、キャリア組の高音君や佐倉君とも懇意にしていると聞く。
 
 これだけの戦力があれば、小国程度なら十二分に攻め落とせる。
 
 本国の方から驚異と思われても不思議ではないんだよ」
 
 諭すように告げるガンドルフィーニの言葉に対し、抗議の声は意外な所からあがった。
 
「ちょ!? お待ち下さいガンドルフィーニ先生! 何故に私や愛衣までもネギ先生の一味に加えられていますか!?」
 
 猛然と抗議する高音。
 
 そんな彼女の両肩に背後から優しく手が置かれる。
 
「おいおい、今更仲間を抜けようってのは、むしが良すぎるんじゃねえのか?」
 
「ふふふ、さようなら栄光とキャリアの日々、そしてようこそ、お尋ね者とブラックリストの世界へ」
 
 そこに居たのは良い笑顔を浮かべたネギとアーニャだ。
 
 あくまでも自分を逃がすつもりがないのだと判断した高音は、ネギに指を突き付けると、
 
「……こ、こうなったら、学祭中は私が貴方を監視させていただきます!!」
 
「だが断る!」
 
「答えは聞いてませんケド!!」
 
 ……高音さんも、大分、ネギ先生に染まってきたなぁ。
 
 ネギの生徒達が諦め顔で、そう思う中、学園長は勝手にパトロールのシフトに変更を入れてしまう。
 
「それで、その査察官って、一体どんな奴が来るんだ?」
 
 高音の抗議を黙殺しつつ学園長に問い掛けてみる。
 
「それが分からんのじゃよ。
 
 一般人と同じように入場しネギ君の監視に務めるらしくてな、相手の性別や年齢すら掴むことが出来んかったんじゃ」
 
 むしろ、抜き打ちの査察がある事が事前に分かっただけでも上出来な状況だったらしい。
 
 ネギ達がそんな会話を繰り返していると、愛衣が不意に何かに気付いたように顔を上げ、偵察機械の存在を示唆する。
 
 間髪入れず、サングラスと髭がトレードマークの教師、神多羅木が無詠唱呪文を放ってそれを破壊した。
 
「――追います」
 
 名誉挽回とばかりに高音が名乗りを挙げ、愛衣を連れてガンドルフィーニと共に監視者の追跡にはいる。
 
 そこで打ち合わせは解散となり、三々五々魔法先生と生徒達はそれぞれの場に散っていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 一緒にやって来た生徒達は、それぞれの出先に向かい、特に用事のないネギとエヴァンジェリン、そしてネカネの三人は一度帰路に着くことにした。
 
 そんな中、ネギ達の眼前にフードを被った少女が何の前触れもなく落下してくる。
 
 ネギは訝しげな眼差しで眼前の少女に視線を向け、
 
「……何だ、超か」
 
 それで興味が失せたとばかりに、彼女を助け起こそうともせずに、その場を去ろうとする。
 
 そんなネギに向けて超は縋り付くように、
 
「ね、ネギ老師、丁度良かった。助けてくれないか? 私、悪い奴らに追われてるネ」
 
 そう言って、彼に助けを求めるが、ネギは胡散臭そうに、
 
「どうせ自業自得だろ? 自分でなんとかしろ。――つーか、面倒事に俺を巻き込むな」
 
 言い残し、超を置いてその場を去ろうとする。
 
 そんなネギを引き留める為、超は懐から一枚のカードを取り出し、
 
「助けてくれたら、超包子の一年間無料食べ放題チケット差し上げるネ!」
 
 その言葉に、ネギの歩みが僅かに鈍る。
 
 それを見た超は、あと一息だと判断し、
 
「炒飯を注文の際には、てっぺんに旗も建てるヨ」
 
「何処の何奴か知らねえが、俺の生徒に手ぇ挙げようたぁ不逞ェ野郎だ!」
 
「……やってみたかったのか? 旗残し」
 
 エヴァンジェリンの呟きに答えず、ネギは超を抱えて屋根の上を伝い逃走に入る。
 
 彼らの後を追うのは、黒衣に仮面を被った影法師達だ。
 
「……あれ、高音の影法師と同じもんだな。って事は、敵の中には影使いがいるって事か」
 
「それでどうするの? ネギ」
 
 問い掛けるネカネに対し、ネギは当然と言った表情で、
 
「返り討ちにする」
 
「人目が多いから、派手なのは控えた方が良いんじゃないッスか?」
 
 というカモの助言に対し、ネギは唇を邪悪に吊り上げ、
 
「一般人を気にして、奴らが動きを鈍らせれば好都合だ」
 
 ネギの冥王な発言にエヴァンジェリンも唇を歪ませ、
 
「なかなか良い発言だぼーや。それでこそ、我が主として相応しい」
 
「あらあら」
 
 エヴァンジェリンが絃を使って影法師達を拘束し、
 
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル! 闇の長子に告ぐ! 魔王の持つ光りの斧と化し、全てを薙ぎ倒せ! “光魔の戦斧”!」
 
 ネギの右手が鈍い輝きを放ち、腕を薙ぎ払うように振るうと光刃が飛ぶ。
 
 長大な光の鎌は、影法師達を纏めて両断した。
 
 空気に溶けていくように消え去る影法師達。
 
 一瞬の目配せの後、ネギ達は散開し、攻勢に移る。
 
「カモ! 念波妨害!!」
 
 ネギの声に従い、カモが敵の念話を妨害する。
 
 ネカネは屋根の上に、エヴァンジェリンは人混みの間を縫って敵の元へ赴く。
 
 そしてネギはその場で索敵魔法を起動。
 
 こちらに近づいてくる敵の位置と雑踏の人混みを完全に把握する。
 
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル。
 
 ――福音たる輝き、この手に来たれ! 導きの元、鳴り響け! “導きの光”」
 
 現れた光球は4つ。
 
 それらが地面スレスレを縫うように飛んでいく。
 
「取り敢えず、武装解除させるか……」 
 
 雑踏の中、人の足下を蛇行しつつ、影法師達の主に近づいた4つの光球は彼女の周囲を高速で旋回し、彼女の纏う服を裁断しつつ手にした杖を弾き飛ばす。……そのついでに彼女の身に纏う服が着用不可能なまでに切り刻まれたのは、彼女の頭上に輝く運命の星のなせる業か。
 
 一拍の後、光球によって自分が下着姿に剥かれた事を自覚した少女は、渾身の力を込めて叫びを挙げる。
 
 聞き覚えのある叫び声にネギは眉を顰め、
 
「……もしかして、やっぱり高音だったのか?」
 
 恐る恐る路地裏から表通りに顔を出してみると、そこには腕で身体を覆い隠すようにしてしゃがみ込む高音の姿があった。
 
 ネギとしては武器だけを弾き飛ばさせたつもりだったのだが……。
 
「……何で脱げてんだ? アイツ」
 
 心底不思議そうに首を傾げてから、駆け寄って自分の上着を掛けてやり、超を待たせている路地裏へと高音を引き込んだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ――同時刻。
 
 屋根に上がったネカネは、ガンドルフィーニと対峙していた。
 
「……ネカネさん?」
 
「あらあら」
 
 展開が分からず、困った笑みを浮かべるネカネの元に、ネギから念話が入る。
 
“姉ちゃん、悪いけど適当な女物の服買って、さっきの路地裏まで来てほしいんだけど……”
 
“――あら? どうしたの? ネギ。今度は女装に目覚めたのかしら?”
 
“目覚めてねぇ!!”
 
 ネギは疲れたような溜息を吐きながら、
 
“高音がいつもの病気で、全裸になっただけだよ……”
 
“あらあら”
 
 そして5分後、ガンドルフィーニを伴い現れたネカネに渡された服を着た高音は涙目でネギを睨みながら、
 
「それで、これは一体どういう事ですか!?」
 
 物凄い剣幕で問い質す高音に対し、ネギはいつもの調子を崩す事無く、
 
「どう……? って言われてもな。
 
 自分の教え子から助けを求められたら、手を差し伸べるのが、教師として、人としての正しい姿だろ?」
 
 臆面もなく告げるネギを半眼で見つめる超。
 
 ……思い切っり、面倒臭がって見捨てようとしたの誰ネ?
 
 それでもネギの説明に納得したガンドルフィーニは超の処分は自分に任せるようにネギに告げ、彼女を連行しようとする。
 
 ……ここで超が連れて行かれたら、俺の旗付き炒飯が!?
 
 そう思考した時には既に、魔法の射手を放ち超を拘束する高音の影法師を消滅させていた。
 
 ネギの凶行に慌てて振り返るガンドルフィーニと高音。対するネギ本人は一瞬、……やっちまった。という表情を浮かべるが、それもすぐに押し隠し、
 
「人の生徒、無断で拉致すんなつーの」
 
 一応、教師としてもっともらしい事を言っておく。
 
「ふむ、だが超君が警告を無視したのは、これで三度目だ。
 
 警告を三度も無視したからには、見つかれば罰を受ける覚悟をしていたという事だ。……そうだね?」
 
 超に向け問い質すガンドルフィーニに、超は渋々ながらも同意する。
 
 ネギは面倒臭そうに溜息を吐き、
 
「超は俺の生徒だ。コイツが何かやらかしたら、俺が罰を与える」
 
 そして視線を超に向け、
 
「――言っとくが記憶削除なんて生易しいもんじゃねぇぞ。
 
 地獄の餓鬼玉召喚して、生きたまま四肢を喰わせやる。……それが嫌なら、面倒事起こすな」
 
 有無を言わせずに一方的に告げると、視線をガンドルフィーニに戻し、
 
「そういう事だ。だから、勝手な事してくれんなガンドルフィーニ先生」
 
 真っ直ぐに見つめられたネギの視線が持つ力に彼の父親と同じような決意を感じ取ったガンドルフィーニはネギを信頼に値すると判断し、その場を後にしようとするが、
 
「……そう言えば、愛衣は何処に行ったのでしょうか?」
 
 高音の言葉に、エヴァンジェリンの姿もない事を思い出したネギは本日何度目かになる溜息を深々と吐き出し、
 
「……生きてるといいなぁ佐倉」
 
「ちょ!? 何ですか! その諦めにも似た呟きは!?」
 
「いや、だってな……、佐倉の迎撃に出たのエヴァだし」
 
「愛衣ぃ――!?」
 
 高音の絶叫が響く中、件の少女達はというと……、
 
「ん? 何だ? 小娘。この程度の力で、この私に喧嘩を売ろうというのか?」
 
 冷気の爆発で愛衣を翻弄しながら、
 
「ほらほら、どうした? もっと私を楽しませてみせろ!!」
 
「ひ――ん!? 助けてくださーい! お姉さま!? ネギ先生!?」
 
 こうして、佐倉・愛衣の心にシッカリとトラウマを刻みつけつつ、麻帆良学園祭は前夜祭を迎える。
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