魔法先生……? ネギ魔!
 
 
書いた人:U16
 
第18話
 
 さて、なんとか無事に終了を迎えた麻帆良祭であるが、流石に騒動の元凶となったネギ達に対し、何のお咎め無しというわけにはいかない。
 
 一応、戦闘中にネギの真意に気付いたタカミチの取りなしにより、今回の事件は無かった事になってはいるが、それでも実質的な被害が出ている以上、別件という形で彼らに罰が与えられる事になった。
 
 名目上の彼らの罪は、学祭中の悪ふざけによる施設破壊だ。
 
 まず、本来の首謀者である超・鈴音に対してだが、ネギの破壊した施設等の補修費の支払い。
 
 これは、超包子の収益から考えると、さして痛手ともいえない程の額である。
 
 そしてネギには、一ヶ月の無料奉仕活動が言い渡された。
 
 無論、そのような命令を素直に聞く男ではないが、高音とアーニャ二人の監視員が常時見張るとなっては、流石のネギもサボるわけにはいかない。
 
 さて、そうなってくると当然、問題となってくるのは魔法世界からやって来ているという監査の存在だが、このネギの進退を決める会議の最中にその監査本人が顔を出した。
 
 やって来たのは浅黒い肌と銀色の髪をした巨漢だ。
 
 彼は周囲の魔法先生達を見渡し、その中にタカミチの存在を見つけるとウインクを一つ投げ、そのまま大股でネギの元に赴き、その頭に拳骨を落とす。
 
「痛ってぇ──!? いきなり、何しやがるこの野郎!」
 
 逃げられないように、と全ての魔法発動体を取り上げられているネギは障壁を展開すらしておらず、マトモにその拳をもらってしまう。
 
 勢い良く食い付いてきたネギに対し、男は人懐っこい笑みを浮かべると、ネギの頭を乱暴に撫で、
 
「おいおい、何でここまであのバカそっくりに育ってんだ? 説明してくれタカミチ」
 
 問われたタカミチは、答えに窮しながらも顔には笑みを浮かべ、
 
「何で? と言われても、……親子ですからねえ」
 
 アッサリと似ている事を認められたネギは、不満そうな顔で、男の手を振り払い、
 
「おい、タカミチ。誰だ? この礼儀知らずなオッサン」
 
「おめぇも充分、礼儀知らずじゃねぇか」
 
 告げ、ネギの背中を乱暴に叩く。
 
 しかし、そこに込められているのは親しみだ。
 
 まるで十数年来の友と再会したかのようなはしゃぎよう。
 
「その人は、ナギの親友で“紅き翼”の一員でもあった人でね──」
 
 タカミチの説明を補足するように、男は
 
「そんで、今回、魔法世界から差し向けられた監査でもあるってわけだ」
 
 ネギの教え子達が緊張に息を呑む中、当のネギは平然とした態度で、
 
「──で? その監査様は、どう判断したんだよ?」
 
 その言葉に含まれる挑戦的な雰囲気に、男は笑みを濃くし、
 
「かぁ──!? その年上を年上と思ってもいねぇ態度! ますますナギの野郎にそっくりだな!!」
 
「だから、あのクソ親父と一緒にすんなって言ってんだろうが!?」
 
 当然、ネギの抗議は受け入れてもらえない。
 
 代わりに男はネギの頭を、今度は優しく叩き、
 
「心配すんな。……面白いもん見せてもらった礼に、適当に誤魔化しといてやるよ」
 
 告げ、それで話は終わったと踵を返して部屋を出ていこうとする。
 
 男の言葉を受けてはしゃぐ生徒達。
 
 その中に、明日菜の姿を見つけると、男は慌てて振り向きタカミチに視線で確認を取る。
 
 無言で頷き返すタカミチ。
 
 それを受けた男は擦れ違い様に、明日菜の頭を優しく撫で、
 
「…………」
 
 しかし、何も言わずにその部屋を後にする。
 
 ……が、一度扉を潜った男は、再度ドアから顔を覗かせ、
 
「おい、もうじき夏休みなんだろ? 暇なら、ちっと魔法世界まで来い。──歓迎してやるからよ」
 
 そう言い残し、ネギの返事も聞かずにそのまま姿を消した。
 
「ハッ、暇だったら、な」
 
 と悪態を吐くネギ。
 
 そんな中、男の態度の真意が分からずも、何処か懐かしさを感じて呆然とする明日菜。
 
 だが、それもすぐに周囲で騒ぐクラスメイト達に巻き込まれてそれどころではなくなっていた。
 
 
 
  
 
 
 
 
 
 
 それから、2時間後。
 
 彼女達が行ったのは宴会だ。
 
 横断幕には、『超りん&ネギ先生残留決定おめでとう!』と描かれ、残りのクラスメイト達も呼んで、派手に騒いでいた。
 
 ちなみに場所と料理などは、超包子提供である。
 
「えー……、送別会まで開いてもらっておいてなんだが、実は私、帰らなくて良くなたネ」
 
 気恥ずかしそうに告げる超。
 
 正確には帰れなくなったが正しいのだが、この際、そのような事はどうでも良いだろう。
 
「と、いうわけで餞別に貰た物を返そうと思うヨ」
 
 そう言われても、一度あげた物だ。返されても困ると言って、断る者達が殆どだ。
 
 中でもあやかは、銅像など返されても処分に困るだけであり、断固として断った。
 
 だが、それでも絶対に返さなければならない物もある。
 
「……古。やはり、コレばかりは受け取れ無いネ」
 
「イヤ、一度超にあげた物アルね。私としても受け取るわけにはいかないヨ」
 
 互いに受け取れないと言い張る古菲と超。
 
 そんな二人に妥協案を出したのはネギだ。
 
「それ双剣なんだろ? だったら、一人一本づつ持ってりゃ良いじゃねぇか」
 
 それが嫌なら問答無用で俺が貰うけどな、とのネギの言葉に、双方それで妥協した。
 
 そして、超の挨拶が終わった後はネギだ。
 
 彼は付き添われて出てきたネカネに強引に頭を下げられると、
 
「こんかいはぜんめんてきにわたくしがわるうございましたなおごめいわくをおかけしたみなさまにいたりましてはおひとりさまいっかいかぎりのげんていでわたくしのできるはんいないでなんでもいうことをきかせていただきたいとおもっております」
 
 ……物凄く、誠意の欠片も無い、更にはやる気のみられない、これでもかという程の棒読みだった。
 
 だが、それを聞いて目を輝かせる者達も居る。
 
「んー……、それじゃあ何して貰おっかなぁ?」
 
 満面の笑みで告げるのはハルナだ。
 
 今回、ネギに対してかなり恨みのある彼女は邪悪な笑みを浮かべ、
 
「じゃあ、取り敢えず裸踊りでも──」
 
「今度は本物の臓物ぶちまけられたいか?」
 
「いえ、何でもありません」
 
 どうやら、しっかりとトラウマに刻まれたようだ。
 
「は〜い♪ じゃあ私は──」
 
 元気良く手を挙げるまき絵。
 
「ここに、あの時密かに撮った写真があってな」
 
 言って、懐から携帯電話を取り出す。
 
 勿論、あの時というのは、“風花・武装解除”でまき絵達が全裸になった時のものだ。
 
「ちょッ!? 何時の間に!」
 
 まき絵が抗議の声を挙げるが、当然ネギは受け入れない。
 
「……つーかお前、最初から言うこと聞く気無いやろ」
 
 半眼で告げる小太郎に対し、ネギは鼻を鳴らし、
 
「相手見て言ってるだけだ。
 
 ──なんで、無茶苦茶言いそうな奴の言うことまで真っ当に聞き入れなきゃならねえ」
 
 ちなみに、ネギの視点から見て無茶苦茶言いそうな奴というのは、裕奈、朝倉、柿崎、美空、釘宮、ハルナ、まき絵、桜子、真名、超、葉加瀬、千雨、エヴァンジェリン、アーニャ、ネカネの15名だ。
 
 裕奈、朝倉、柿崎、美空、釘宮、ハルナ、千雨辺りはわざと変な命令をしそうだし、まき絵、桜子は、天然なので本人に悪気が無くても無理難題を言いかねない。
 
 超、葉加瀬は、実験材料にされかねないし、真名、アーニャはなまじ付き合いが長い分、限界ギリギリまで酷使されるだろう。
 
 エヴァンジェリン、ネカネに至っては、間違いなく極限状態まで色々と絞り尽くされる事になる。
 
 本来なら、ここに鳴滝姉妹も入るのだが、今回彼女達はカウントされていないので、この中には含まれない。
 
 そして残ったのは、比較的大人しいタイプの生徒達。
 
 彼女達に向け、して欲しい事を考えておくようにと告げると、ネギはテーブルに並べられている料理の征服に取りかかった。
 
 ……とはいえ、何だかんだと文句を言いつつも、最終的には彼女達全員の願いを叶えるのが、ネギ・スプリングフィールドという男だ。
 
 我先にと、小太郎と争いながら料理を貪るネギ。
 
 そんな彼を呆れ顔で眺める少女達。
 
 しかし、その眼差しは優しいものだ。
 
「……まぁ、何はともあれ、事なきを得て良かったです」
 
「うん……」
 
 夕映の言葉に、相づちを拍つのどか。
 
 だが、彼女の心にわだかまるのは、あの最終決戦直前、ネギの為にボロボロになりながらも戦った夕映の姿だ。
 
 自分には、あんなになるまで戦えるだろうか? という疑問と共に、やっぱり自分は身を退くべきではないか? という考えまで浮かんでくる。
 
 そんな事を考えていると、それが表情に出ていたのか? 夕映が心配そうな声を掛けてくる。
 
「大丈夫ですか? のどか」
 
「……え? う、うん。大丈夫」
 
 小さくガッツポーズも取ってみるが、それでも夕映の心配は完全には拭いきれない。
 
 その雰囲気を察したのか? 彼女達の近くに居た美空が、
 
「何? 悩み事でもあんの? 本屋」
 
「い、いえー……、そんなわけでは」
 
 言い詰まるのどかに、美空は悩み事があるのなら、教会に懺悔しに来ると良いと勧める。
 
 それで一応の結論を得たのどか達。すると、特設ステージの方から軽快な音楽が聞こえてきたので、揃って視線を向けてみた。
 
 彼女達の視線の先、栄養を補給してテンションの上がったネギが、デコピンロケットに演奏させてカラオケに突入していた。
 
「時間の波を捕まえて、●すぐに行こう約束の場所♪ 限界無限いーざぁ飛び込め、Climax Jump!」
 
「い〜じゃん♪ い〜じゃん♪ すげぇ〜じゃん♪ い〜じゃん♪ い〜じゃん♪ すげぇ〜じゃん♪」
 
「……相変わらず、無駄に元気です」
 
 ステージ上では、更に3−Aのムードメーカーである、朝倉、裕奈、ハルナの三人も乱入し、混沌とした様相を呈してきた。
 
「……元気なのは、ネギ先生だけでは無かったようですね」
 
 溜息混じりに告げる夕映。
 
 先程までの死闘が嘘のようにはしゃぎ回る少女達。
 
 結局、宴会は、日付が変更し日が昇るまで続けられた。   
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ──二日後。ネギがエヴァンジェリンとネカネによって連れて来られたのは、図書館島の地下にあるクウネル・サンダースこと、アルビレオ・イマの隠れ家だ。
 
「これ、土産のケンタッキーファミリーパックな」
 
 告げ、出迎えてくれたアルビレオに対して、持参した土産を手渡す。
 
 ネギとしては、あのふざけた偽名であるクウネル・サンダースへの皮肉を込めたつもりだったのだが、逆に小躍りするくらい喜ばれてしまい、少々拍子抜けさせられた。
 
「んで? 話ってなんだよ?」
 
 宴会の六次会まで付き合った為、未だ疲れの残る身体を引きずってやってきたネギは、恨みがましい目つきでアルビレオを睨みながら問い掛ける。
 
「えぇ、少々気になる事がありましてね」
 
 そう前置きし、質問を自分の中で纏め上げてからネギへと問い掛ける。
 
「まほら武道会での決勝の時、君はナギに魔法の指導を受けていたと仰ったのですが、それは事実ですか?」
 
 問われたネギは肩を竦め、
 
「嘘吐いても仕方ねぇだろ。
 
 っても指導を受けてたってのは、語弊があるぞ。別に野郎から何かを教えて貰った覚えは無いからな。
 
 ──純粋に稽古相手してもらってただけだ。つーか、あのクソ親父、人に物事教えるのに向いてないだろ?」
 
 その辺を敢えて強調して告げるネギ。
 
 そう言われると、流石のアルビレオも苦笑いしか出てこない。
 
「……分かりました。これで、私としても懸案事項の一つが解決してホッとしています」
 
 続いて第二の質問。
 
「ネギ君。……君はそれを踏まえた上で、どう行動を起こすつもりですか?」
 
 その質問に対してネギは、不敵な笑みを浮かべると、
 
「ウェールズに飛んでって、あのクソ親父はぶっ飛ばす!!」
 
 予想通りの台詞に、その場に居た三人は一堂に笑みを零す。
 
「なるほど。……ですが、武道会で分かったと思いますが、今の君では、未だナギには遠く及びません。
 
 ──無論、千の魔法を収めたとしても、です」
 
 事実を突き付けられ、歯噛みするネギ。
 
 そんな彼に対し、アルビレオは薄い笑みを浮かべたまま、
 
「どうでしょう? 暫く私の元で修行していきませんか? ネギ君の戦闘スタイルは、エヴァンジェリンよりも私の方が近いですし……」
 
 オマケに、ここにある魔導書は好きに読んでも良いという。
 
 一も二もなく賛同を示すネギ。
 
 それに対し、反対するのはエヴァンジェリンだ。
 
 彼女にしてみれば、アルビレオの影響を受けて、これ以上ネギの性格が捻くれるのだけは、どうしても避けたい。
 
「待てぼーや! それは罠だ! ……主に私に対しての!?」
 
「なら、何の問題も無いじゃねぇか」
 
「大有りだ! いいかよく聞け! そもそもその男はなッ!? ――」
 
 懸命に抗議してみるが、結局ネギの意見が覆る事はなく、こうして彼の新たな修業先が決定した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 それから、学校の授業終了後にネギはアルビレオの元に通うようになった。
 
 そこでもエヴァンジェリンの別荘と同じように現実時間の一時間が一日になる空間を作りだしてもらい、その中で修行に励む。
 
「んじゃぁ出欠とるぞぉ」
 
 休み明けの為、気怠げな言動で出欠をとるネギ。
 
 さよから始まり、順当に出欠をとっていたのだが、様相は後半に入った辺りで怪しくなってきた。
 
「……長谷川ぁ」
 
「はい」
 
「……キティ」
 
「…………」
 
「キティは居ねえのか?」
 
 ネギの呼ぶ名前に心当たりの無い生徒達は小首を傾げるが、呼ばれた本人は羞恥と怒りに顔を真っ赤に染めてネギを睨み付ける。
 
「なんだ? 居るならちゃんと返事しろよキティちゃん♪」
 
「……貴様ッ!?」
 
 怒気を露わにするエヴァンジェリンと、それを更に煽ろうとするネギ。
 
 学祭でエヴァンジェリンの本性を知ることになった生徒達は一斉に教室から脱出しようと試みるが、何故かドアが開かない。
 
 このような真似をする人間など限られている。
 
 慌てて振り返る女生徒達の視線の集まる先、そこに居るネギは邪な笑みを浮かべつつ、
 
「知らないのか? 大魔王からは逃げられない」
 
「つーか、全面的にアンタの仕業でしょ!? 道連れにしようとするんじゃないわよ!」
 
「……この命、たとえ失ってもお守り致します!」
 
「守られてるばっかりはイヤやわ! ウチも守りたい!」
 
「……かなりテンパっているですね、そこのお二人は」
 
 混沌と化してきた教室の片隅では、遺書を書こうとする生徒まで出てくる始末。
 
 しかし、ネギはそんなそんな空気など微塵も読まず、
 
「つーか、何でお前も名前呼ばれただけで怒ってるんだよ? 可愛いじゃねぇか、キティー。それとも何か? 誰かに名前の事でからかわれたトラウマでもあんのか?」
 
 ――有る。
 
 明確に、彼女に対して面と向かってからかい倒してくれた男が二人。
 
 一人はネギに、彼女のフルネームを教えた男、アルビレオ・イマ。
 
 もう一人はネギの実父、ナギ・スプリングフィールド。
 
 ナギと同じ顔をしたネギにからかわれると、余計に腹が立つ。
 
 おそらくは、それを見越した上でアルビレオがネギに彼女のフルネームを教えたのだろう。
 
 このまま怒り狂えば、全てネギとアルビレオの思うがままだと判断したエヴァンジェリンは、なけなしの自制心を振り絞り何とか耐える事に成功してみせ、
 
「は、……ははは、何を言っているんだ? ぼーや。そんな事あるわけなかろう。私は充分に冷静だぞ」
 
 顔を引きつらせながら告げるエヴァンジェリン。それは誰の目から見ても無理をしているのは一目瞭然で……、しかし、ネギはその言葉を敢えて言葉通りの意味として受け取り、
 
「よーし! じゃあ、全員これからはエヴァの事をキティーと呼ぶようにな! クラスメイトらしく、フレンドリーに!!」
 
 ネギの言葉を真摯に受け取ったあやかは、学級委員長として目を輝かせ、
 
「まぁ! 素晴らしい考えですわ、ネギ先生! 私も前々から、無口で余り他人と話をしようとしないエヴァンジェリンさんの事を心配していましたの!」
 
 告げ、エヴァンジェリンに向けて歩み寄り、極上の笑顔を浮かべ、
 
「これからもよろしくお願いしますわ、キティーさん」
 
「僕達もよろしくー♪ キティーちゃん」
 
「えへへー、よろしくですー♪」
 
 事情を知らない生徒達が次々と声を掛けるのを、祈りながら見つめる明日菜達。
 
 こうして心臓に悪い環境の元、授業が始められた。
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 ……一応、何事も無く終了した授業に安堵の吐息を吐く面々。
 
 帰り際、エヴァンジェリンが不穏当な言葉を零していたような気もしないでもないが、取り敢えず少女達は自分の心の平穏の為にも聞かなかった事した。
 
 そんなこんなで放課後、相も変わらず成績の悪いバカレンジャー達の補習と平行作業で、ネギは千雨に対して電子精霊の本質に関して語っておく。
 
「んー……何処から説明したもんかな?」
 
 そう前置きし、
 
「そうだな……、何て言うか……、電子精霊って存在は、元々インターネット上で生まれた存在なわけよ。
 
 それはつまり、『ある』か『なし』かの世界で生まれたって事でな」
 
 言って考え、
 
「お前は“数が宇宙を支配する”って名言を知ってるか?」
 
 千雨に問い掛けると、彼女は暫し考えた後で小さく頷いた。
 
「……ピタゴラスの言葉ですね」
 
 補足したのは、小テストの問題を解きながら、隣で何気に話を聞いていた夕映だ。
 
「……お前、そんな事は詳しいのに、何で学校の成績は悪いんだよ」
 
 呆れ半分、感心半分で告げ、話を続ける。
 
「まあ、そんな事でな、およそ数字で表せない物体、事象なんぞ、この世に存在しないわけだ。
 
 数字は人類が生み出した万能の概念。
 
 それを更に簡便化した究極の言語二進数。
 
 ……つまり、0と1の羅列だ」
 
 この時点で既にバカレンジャーはリタイア。
 
 しかし、それにも構わずネギは話を続ける。
 
「モーツァルトのレクイエムはスピーカーから聞く事が出来るし、ダ・ヴィンチのモナリザはモニター上に表示する事が出来る。
 
 ……分かるか? どれだけ優れた物であっても、0と1の羅列に分解、変換出来るって事だ」
 
 一息、
 
「現時点での問題は、表現に必要なデータが余りに長ければ、演算処理に膨大なエネルギーが必要になってくるって事だ」
 
 ネギがウィル子の名前を呼ぶと、千雨のPDAから彼女が姿を現した。
 
 彼女の周囲には、本来千雨の電子精霊であるネズミ型の電子精霊が漂っている。
 
「俺達が暮らしているこの世界も、突き詰めれば素粒子の有るか無しかに行き着くわけでな。
 
 現にコイツ等は、そうした素粒子の位置を座標に取り込む事で、こうして現実世界に存在してるからな」
 
 ネギは唇の端を吊り上げ、挑戦的な笑みを浮かべて告げる。
 
「0と1の世界に生まれたからこそ、0と1を使ってその姿をこの世界に現す事が出来る。
 
 ……分かるか? 一次元のレクイエムも二次元のモナリザも0と1に分解する事に成功してるんだぞ。
 
 もう一つ次元を上げて、立体に考えてみろ。対象を0と1に分解し、データとして処理出来れば……、コイツはそれを再現出来るはずなんだよ!」
 
 それを聞いた千雨の背筋に怖気が走る。
 
 ネギの言っている事はつまり、
 
「この悪徳ウィルスに、充分なデータとパワーがあれば、まさか、何でも……」
 
「そう! 実体化させる事が出来る!! 原初(アルファ)から終末(オメガ)までの全てを、だ!」
 
 そのような存在を何と呼ぶか知っている。
 
 アルファベットで僅か3文字、漢字なら1文字で事足りる、究極の存在。
 
 学祭のゴタゴタでファンタジーにも慣れたと思っていた千雨だが、これには度肝を抜かれた。
 
 ……魔法やら精霊やらの次は神様かよ。
 
 しかも、そんな存在が現在自分に取り憑いているのだ。
 
「とは言っても、だ」
 
 ネギの注釈が入り、千雨は再び耳を傾ける。
 
「お前が今言った通り、条件付きで、だがな」
 
 その条件というのは……、
 
「全能と言える程のエネルギーと、全知よ呼ばれるだけのデータだ」
 
 それは……、
 
「いや、無理だろ。どう考えても!?」
 
「バーカ、やる前から諦めてんじゃねぇよ」
 
 言って、千雨の肩を叩き、
 
「じゃ、データ収集の方よろしくな。俺はエネルギーの方、探してみるから」
 
「って、ふざけんじゃねぇ!? 何で私がそんな事──」
 
「いやなら、一生ウィル子に取り憑かれたままで人生送るんだな。
 
 ……コイツ自分で超愉快型極悪感染ウイルスだって、言ってなかったか?」
 
 コイツが取り憑いてる限り、お前の人生負け組決定だなぁ……。と零すネギ。
 
 言われ、考える。
 
 ……確かに、この先生の性格の悪い所だけを取り出したようなウィル子が私の人生の大事な時にちょっかいを掛けないとは限らねぇ。
 
 例えば、好きな相手が出来て告白しようとする時。
 
 例えば、就職の面接時。
 
 例えば、大口の取引時。
 
 そこまで考えて、背中に嫌な汗を流しながらネギに向き直り、
 
「そ、そのデータ集めを手伝えば、本当にコイツから解放してくれるんだな?」
 
 ネギに確認をとると、彼は真摯な眼差しで、
 
「当然じゃないか。──ちょっとは、俺を信じろよ長谷川」
 
 勿論、嘘だ。
 
 全知とも言える程のデータなどそうそう収集出来る筈は無いし、仮に出来たとしても、それを成せる程に高い技量を持つ千雨をネギは手放すつもりは更々無い。
 
 間近で見る真剣なネギの表情に一瞬ときめいてしまった千雨は、その奥底にある本心に気づけなかった。
 
「ぜ、絶対だからな! 約束はちゃんと守れよ!?」
 
 そう言い残し、逃げるように教室から出ていく。
 
 千雨を見送るネギとバカレンジャー達。
 
「……それで、本当に全知とも言える程のデータを集める事は可能なのですか?」
 
 夕映としても、それはとても興味深い事だ。
 
 何しろ、それほどのデータ量。夕映の世界図絵は元より図書館島の本、全てを持ってしてもまだまだ足りない。
 
 対するネギは小さく溜息を吐き出し、
 
「アカシックレコードでも探し出せりゃあ、可能だろうよ」
 
 宇宙創生から全ての過去と未来を記されていると言われる記録媒体。……否、ある意味、それ自体がある種の概念となっているとも言えるだろう。
 
「……存在するのですか?」
 
 名前だけは聞いた事はあるが、存在そのものは眉唾物だと思ってきたが、ネギが言うとなると、実在するのかも知れない。
 
「……存在自体は確認されてるらしいけどな。触れた奴はまだ居ねぇ。つーか、触ったら情報過多で脳味噌パンクして発狂死確実だしな」
 
「ちょ、ちょっと!? そんな物騒な物を千雨ちゃんに触らせる気!?」
 
 ネギの台詞を聞いた明日菜が猛然と抗議の声を挙げるが、それを諭したのは夕映だ。
 
「心配無用です、アスナさん。アカシックレコードは、この広大な宇宙の何処にあるのかさえ分かっていませんし、それに触れる事など、まず普通の人間には不可能でしょう」
 
 宇宙の何処にあるのか分からないという事は、逆に自分の身近に存在する可能性もあるという事を、彼女は気付いているのだろうか?
 
 ……それに“輝くトラペゾヘドロン”さえ召喚するネギの事だ、その辺りの不可能は軽く超越してくれてもおかしくない。
 
「ま、そんなに難しく考えんな。
 
 人工の神を造ろうなんて行為。一世代で出来るとは思ってねぇよ」
 
 本来ならば、子々孫々と受け継がれていく一子相伝の悲願とも言うべき伝承。
 
 ……裏技なら幾つか心当たりはあるけどな。
 
 内心、邪悪な笑みを浮かべながら告げるネギ。
 
 ──ともあれ今は、
 
「小テストの終了まで後、1分切ってるわけだが、お前等終わってんのか? 50点以下なら、また地獄の補習やらせるぞ?」
 
 その言葉を受け我に返ったバカレンジャー達が即座に机に囓り付いた。
 
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 そんな感じで補習を終えたネギは、その足で図書館島に向かい、図書探検部の仕事をネカネに頼んで自分は深部にあるアルビレオの隠れ家へと向かう。
 
 そこで行われるのは、時間の流れが違う異空間内での修行。
 
 否、違うのは時間の流れだけではない。その空間内の重力は通常の3倍、逆に空気は1/3、更には魔力の減衰も大きいという過酷な環境下だ。
 
 そこでネギは、アルビレオの作り出した竜牙兵と模擬戦を行っていた。
 
 とはいえ、何時もなら瞬殺出来る程度の相手でさえ、この空間内では手こずる始末。
 
 接近戦では圧倒的にかなわず、砲撃魔法を放とうにも魔力減衰が激しく、竜牙兵に届く前に消えてしまう。
 
「クソッ!? むかつく野郎だ!」
 
 そんな圧倒的に不利な状況下でネギの選んだ方法は……。
 
「……意地でもぶっ飛ばしてやるッ!!」
 
 それも、高位の砲撃魔法ではない。ネギの唱えるのは魔法学校で唯一教える攻撃魔法。
 
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!
 
 光の精霊53柱! 集い来たりて敵を討て!! “魔法の射手・集束・光の53矢”!!」
 
 固定砲台とまで呼ばれたネギの意地。
 
 放たれた光条は減衰しながらも竜牙兵の元まで届いたが、竜牙兵の持つ盾に阻まれてしまい、辛うじてその盾を砕くに留まる。
 
「なんてな……♪」
 
 ネギの持論では、プライドに拘るのは馬鹿のする事で、他にもっと楽に敵を倒せる方法があるのならば、率先してそちらを選択すべきだと思っている。
 
 “加速の羽根”で一気に竜牙兵との間合いを詰めたネギが、懐に現れる。
 
「“力の防護”……!」
 
 左手に展開した障壁を収縮。
 
 表面積は小さくなるが、その分密度が上がって障壁は堅くなり、魔力減衰にも抵抗出来る。
 
 振り下ろされる剣に対し、ネギは拳を叩き付け、
 
「ピンポイントバリアパンチ!!」
 
 竜牙兵の持つ剣も砕いた。
 
 そのまま手にした杖の先端を竜牙兵の口にねじ込み、
 
「“爆裂”!!」
 
 ゼロ距離での爆発魔法。
 
 減衰効果によって爆発効果そのものは小規模なものであったが、それでも頭部を破壊された竜牙兵は行動不能となる。 
 
 苦戦の末に倒したと思えば、今度は二体の竜牙兵が現れ、休憩する間も無くネギは再戦を強いられる事になった。
 
 その二体を倒したと思えば、今度は四体の敵だ。
 
 そんな戦闘中心の修行が主ではあるが、ちゃんと普通に魔法の修行なども行っている。
 
「ネギ君は、通常の詠唱魔法の他に、遅延呪文、初歩の無詠唱が使えるんでしたね」
 
「あぁ、流石にアンタみたく無詠唱でポンポンポンポン重力魔法は連射出来ねぇけどな」
 
 ……まぁ、ネギ君でしたら、その程度の芸当、歳を重ねれば出来るようになると思いますが、と前置きし、
 
「では、二枚舌や重ね掛けなどは如何ですか?」
 
 二枚舌とは複数呪文の同時詠唱、重ね掛けは文字通り同じ呪文を重ね掛けする事で効果を増すというものだ。
 
 それには一も二もなく賛同したネギ。対するアルビレオは更に提案する。
 
「それにネギ君ほど魔法に長けているのでしたら、オリジナルの魔法を作ってみるのは如何ですか?」
 
「……オリジナルかぁ。目標ではあるけども、かなり難易度高いよなぁ」
 
 魔法使いたる者、一度は憧れる自身のオリジナル魔法。
 
 しかし、実際にオリジナル魔法を完成出来るような者など、極一握りのエリート。
 
 それこそ、“偉大なる魔法使い”級の者だけだ。
 
「まぁ、一応独学で基本骨子は出来てるんだけど、意外と難しくてなぁ……」
 
「一朝一夕で出来るような物でもありませんしね。
 
 取り敢えずそちらは私も色々と教えますから、じっくりとやっていきましょうか。
 
 ……では、難易度の低い重ね掛けの方から」
 
 ネギ自身気付いていないが、アルビレオとの訓練で、確実に彼は魔法使いとしてレベルを上げていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ──同時刻。
 
 エヴァンジェリン宅異世界レーベンスシュルト城。
 
 思い悩んだ表情で溜息を吐く少女が居た。
 
「……ハァ」
 
「どうしました? アスナさん」
 
 明日菜を気遣うように声を掛けるのは刹那だ。
 
 再度小さく溜息を吐いた明日菜は、縋るように刹那に悩みをうち明ける。
 
「うん……。あのね、刹那さん。
 
 刹那さんの戦う理由って、やっぱりこのか?」
 
「はい。その通りですが、何か?」
 
 一切の迷い無く肯定する刹那。
 
「いや、……そのね。……私の戦う理由って何なのかな? って思って……。
 
 学祭の時、私、皆の想いを背負っておいて、ネギの覚悟に勝てなかったから……。
 
 ほら、元々私って、巻き込まれただけだから、ネギや刹那さんみたく覚悟ってものが無くて……。
 
 このままじゃ、ずっと中途半端なままなのかな? って思って……」
 
「ふん。そんなに戦う理由が無いというのなら、戦うのを辞めればいいだけの話だ」
 
 背後から掛けられた声に慌てて振り向く明日菜。
 
 そこに居たのは、この城の主、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ。
 
「別に、無理して戦って貰おうなどとは思っていないから安心しろ、神楽坂・明日菜」
 
 そして、見下すような視線を明日菜に向け、
 
「例え貴様が弱かろうが、戦えなかろうが、ぼーやが貴様を護ってくれるだろうよ」
 
 その言葉に、明日菜はエヴァンジェリンの言っている言葉の意味が分からずキョトンとした表情で、数度瞬きを繰り返す。
 
「……ネギが私を護ってくれるって? どういう事?」
 
「何だ? ぼーやから聞いて無かったのか?」
 
 そう前置きし、語り出す。
 
「ヘルマンの事件からこっち。何処かから情報が漏れていたらしくてな。
 
 貴様の魔法完全無効化能力を狙って来ている輩が居るという事さ」
 
 そんな奴らに捕らえられればどうなるか? 想像に難しくない。
 
「自我を奪われ、そいつの思い通りに動く人形として扱われるか? あるいは、脳髄を抜き取られて研究素材として扱われるか?
 
 どちらにしろ、ロクな扱いではないだろうな」
 
「ちょッ!? 何よそれ!!」
 
 自分の身が、そんな危険な事になっていたなど聞いていない。
 
「心配するな。そんな輩はぼーやが片っ端から潰して回っている。
 
 ……まったく大した過保護っぷりだ。
 
 万が一の時の為に貴様を鍛えているというのに、その万が一すら起こらないようにしようと飛び回っているんだからな」
 
 ……何よそれ。
 
 ただでさえ、教師の仕事に、修行に忙しいというのに、更には明日菜を護る為に彼女に知れずに戦っているというのだ。
 
 ……バカみたい。
 
 そんな事も知らずにのうのうと遊んでいた自分が、だ。
 
「それで、どうする? 戦う理由が無いのだろう? 何なら、このまま修行を辞めても……」
 
 エヴァンジェリンの言葉を遮るように、明日菜が口を挟む。
 
「エヴァちゃん……」
 
 ネギの想いに応える術は一つ。
 
 ……強くなる! ネギが心配しないでも済むくらい強く!! 
 
「──私に修行つけてくれる?」
 
 明日菜の瞳から一切の甘えが消えている事を見抜いたエヴァンジェリンは小さく頷き、
 
「言っておくが、私はぼーやや刹那のように甘やかしたりはしないぞ?」
 
 1週間の雪山サバイバルや砂漠での24時間耐久マラソンの何処が甘いというのだろう?
 
 という疑問を持たないでもなかったが、明日菜も真剣に強くなろうと努力を始めた。
 
 ……もとより、人並み外れた才能を有する彼女だ。明確な目標を持つことにより、異常な成長を遂げてみせるだろう。
 
     
 
 
 
 
 
 
 
 
 学祭以降、ネギの朝は早い。
 
 皆がまだ寝静まっている時刻。
 
 彼はこっそりと起き出すと、既に起きて弁当の準備を終えていた茶々丸から弁当を受け取り、それを持って目的地へと向かう。
 
 彼の向かう先はシャークティがシスターを務める礼拝堂だ。
 
 そこで彼は奉仕活動の一環として、朝の掃除と礼拝。そして、神父による説教を聞かなければならない。
 
「うぃーす」
 
「……相変わらず、やる気の無い挨拶ッスね、先生」
 
 やる気0のネギに対して、ツッコミを入れる美空。
 
「当たり前だ。何で朝の早くからテンション上げられるんだよ」
 
 と、気怠げに返すネギ。
 
 彼は、何気ない仕草でモップを手に取ると、
 
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル。
 
 踊れよ、モップ達──」
 
 呪文を唱えると、箒やモップ、雑巾といった掃除用具達が独りでに動き出し掃除を開始する。
 
 ……今度、私もこの魔法覚えよっと。
 
 長椅子に横たわり二度寝を開始しようとするネギを見て、そう思考する美空だが、その考えは5分と経たずに放棄せざるを得なくなる。
 
「何をしているんですか!? ネギ先生!!」
 
 怒鳴り声に慌てて身体を起こすネギ。
 
「何って、……掃除」
 
 ネギの言葉に、シャークティは周囲を見渡して全自動で掃除する掃除用具達を見つめると深々と溜息を吐き出し、
 
「そういう事を言っているのではありません。
 
 掃除は魔法などに頼らず、自らの手で行ってこそ意味があるのです。
 
 良いですか? そもそも朝の掃除を行う意味とは、ただ単に周囲を清潔に保つという理由だけでは無く──」
 
 話が長くなりそうなので、シャークティーに幻術を掛けて大人しく反省しているように見せつつ、自分は彼女の死角となる長椅子に横たわり、再度二度寝を開始しようとしていると、礼拝堂の扉がノックされた。
 
 シャークティに気付かれては面倒だ、と思ったネギが自ら対応に出る。
 
「ヨハネ伝第5章でイエスが言ったの知ってるか? 厄介事を持ち込むな、この女(アマ)だ」
 
「……一体、それは何処の何という宗教ですか?」
 
 扉の向こうに居たのは高音とアーニャだ。
 
 対するネギは露骨に顔を顰め、
 
「何か用か? 俺は今から此処を脱出しなけりゃならないんで、忙しいんだが」
 
 言われ、視線を向けると、シャークティが虚空に向けて延々と説教していた。
 
 それでおおよその事を悟った高音とアーニャは深々と溜息を吐き出し、
 
「いいから、アンタは少し真面目に奉仕活動しなさい! ほら、私達も手伝ってあげるから!」
 
 告げ、ネギの腕を掴んで奥へと引きずって行く。
 
 そして美空とココネの手も借りて強引に掃除をさせ、いざ学校へ行く段になってようやくシャークティに掛けた幻術を解く。
 
「んじゃ、シスター。ちょっと学校行って来ます」
 
 そう言い残し、シャークティの返事も待たずに逃げるようにその場を後にする。
 
 こと此処にいたり、ようやく事情を理解したシャークティはネギを引き留めようとするも、時既に遅し。
 
 慌てて表に出た彼女の視界に映ったのは、全力で疾走するネギ達の姿と、心底申し訳無さそうにお辞儀する高音。そしてその彼女の腕を掴んで疾走するアーニャの姿だけだった。
 
「あー……、もうッ! 明日は絶対に説教を聞いてもらいますからね!?」
 
 その叫びはネギの元にまで届いたのか? それは確かではないが、その日を堺にネギとシャークティの幻術と対幻術対決が礼拝堂での日課となる事になった。
 
   
 
 
 
 
 
 
 
 
 そんな感じで数日が過ぎ、遂にやってきた一学期期末テスト。
 
 しかし、バカレンジャー達がネギの扱きに耐えて頑張ってくれたお陰もあり、何と堂々の13位。
 
「……何か縁起悪りぃなー」
 
 とはネギの弁ではあるが、それまで万年最下位だったこのクラスにしてみれば十全過ぎる出来映えだ。
 
「ま、これでめでたく補習無く夏休みを迎える事が出来るわけだが、余りはしゃぎ過ぎないようにな……」
 
 そう告げるネギの気分は重い。
 
 なにせ、これから地獄の奉仕作業が毎日待っているのだ。
 
 ……しかも、タダ働き。
 
「……何もトラブルが起きませんように」
 
 そう切実に祈るも、あらゆる方面の神様から嫌われまくったこの男(疫病神、貧乏神、死神は除く)。到底、平穏とは呼びがたい夏休みを謳歌する事になるのは次のお話へと持ち越しとなる。
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