魔法先生……? ネギ魔!
書いた人:U16
第10話
生徒達から様々なイベントに誘われたり、超からお礼と称して怪しげな懐中時計を貰ったりしながらも、遂に麻帆良祭は開幕した。
溢れ返る人混みと様々な出し物にはしゃぎながら、ネギは自分のクラスを目指す。
「……確か、ウチのクラスは喫茶店だったけか?」
面倒臭がって、ネギは準備の手伝いをしていない。
精々、見回りの新田先生の目を誤魔化したりした程度だ。
――なので、どのような仕上がりになっているか? 彼は知らなかった。
麻帆良学園女子中等部に辿り着いたネギが見たものは、階段まで延びた人間の行列。
「……何処のクラスだ? こりゃ」
行列の先頭。……並んでいた人達の大半が男だったのが気になるが、それが続いていた先はネギの受け持つクラスの3−A。メイドカフェ“アルビオーニス”だった。
「……メイドカフェ?」
「その通りです」
突如、背後から掛けられた声に振り向いてみると、そこにはメイドカフェの名の通り、侍女のコスプレをした夕映が立っていた。
「……随分と、チンチクリンなメイドだな」
「……放っておいて下さい」
むしろ、その方が良いという客も多数いるのだ。
ともあれ、店先で立ち話というもの他の客に迷惑が掛かるので、夕映に連れられて教室に入った。
そこで待ち構えていたものは、やはりメイドのコスプレをした生徒達。
「いらっしゃいませ――、ようこそ3−Aメイドカフェ“アルビオーニス”へ!!」
出迎えてくれた生徒達に対し、ネギは幻痛のする頭を押さえながら、
「……お前ら、メイド舐めてんのか?」
押し殺した声で告げるネギに対し、彼を宥めるのは早乙女・ハルナだ。
「まあまあネギ先生、落ち着いてよ」
言って、彼をソファーに座らせ、
「日本じゃメイドと言えば、ネギ先生の思い描いてるような侍女じゃなくてじゃなくて、メイドさんが主流なのよ」
「一緒だろ?」
小首を傾げて問い掛けるネギに対し、ハルナはノンノンと指を左右に振り、
「メイドはネギ先生の想像しているような主人に従順に尽くす本物の侍女。対してメイドさんはあくまでも萌えを重視した可愛らしいメイド服を着た女の子の事を言うの!」
「……つまり、そのメイドさんとやらには家事能力は無いんだな?」
……役にたたねぇ。とぼやくネギ。だがハルナは否、と断言し、
「それはそれでドジッ娘属性が追加されて、なお萌えるのよ!」
良くは分からないが、教室の外の行列がハルナの意見の正しさを物語っている。
「それにね、今回はスーパーバイザーに人気bPのコスプレネットアイドルを起用してるからね。
集客率はバッチリよ♪」
最初、コスプレ喫茶だか、おさわりパブだか、ぼったくりバー紛いの店だったものを、衣装のチョイス、接客態度や宣伝、メニューの選別、価格調整に至るまで修正を施し、本物のメイド喫茶すら凌駕するほどの模擬店に仕上げたのは全て彼女の手腕によるものだ。
「ほう……、人気bPネットアイドルか」
とびきりの邪笑を浮かべて、件の人気bPネットアイドルへと視線を向ける。
「な、何か文句あんのかよ!?」
……実は千雨、かなり早い段階からネギにネットアイドルをしているのがバレていた。
面白いものを見つけた、と翌日スキップしながら出勤してきたネギはHRに現れた直後、
「オッケー(はぁ〜と)今日もネギは元気だっぴょ――ん♪」
の台詞と共に登場し、隙あらば黒板に“ちうのホームページ”のアドレスを書こうとするのだ。
その日は辛うじて阻止に成功した千雨だが、腹いせにチャットで有ること無いこと書き連ねようとするも、電子妖精を抱えるネギに太刀打ち出来よう筈もなく、ネギに関する罵倒の書き込みだけを規制され完敗を喫した。
そして現在、反撃のチャンスを伺いつつも表面上だけは従順を示しているわけだ。
……もっとも、スーパーハッカーである自分を凌駕する技術に関しては、かなり認めている所があるのだが、普段から自分をからかうネギの態度がそれを差し引いてもマイナスとなっているので余り意味は無い。
ちなみにハルナはコスプレ系のイベントもチェックしている為、千雨の正体に気付いている。
ともあれ、そんな感じでクラス展示の方は概ね順調だった。
●
クラス展示を後にしたネギは高音達と待ち合わせの場所に向かうのだが、少し問題があった。
「……宮崎との約束が被ってんだよなぁ」
午後4時から、のどかとデートの約束があったのだが、パトロールの時間帯と重なるのだ。
「んー……、見回りがてら、一緒に回るかな?」
「あ、兄貴……、それはちょっとあんまりッスよ」
カモに窘められ、暫く考え込むネギ。
そんな彼の前に人影が現れる。
「ふふふ、お困りのようね、ネギ老師」
現れたのはネギの受け持つクラスの生徒、超・鈴音だ。
「よう、稼いでっか? 超」
「ボチボチと言った所ネ。それより昨日渡した懐中時計持ってるカ?」
超の問い掛けに、ネギは懐から懐中時計を取り出し、
「コレの事か?」
「結構――。これがそのマニュアルネ」
言って一冊の説明書を手渡す。
それを斜め読みしたネギは眉根を寄せた表情で超に詰め寄り、
「おい、コレがタイムマシンだと?」
「その通りヨ」
「ふざけんな!!」
超の言葉を一蹴した。
そして彼女の胸ぐらに掴みかかり、
「タイムマシンつったら、電車型だろうが! 今すぐ作り直せ!!」
「……何見たカ、良く分かタヨ」
ネギの発言に呆れながらも懐中時計……、カシオペアについての説明を行う超。
「じゃあ実際に試してみるヨロシ」
言われ、教えられた通りに航時機を操作する。
瞬間、ネギの身体は過去に跳んだ。
●
−学祭初日・午前10時(2回目)−
過去に現れたネギを出迎えてくれたのは、未来(?)で別れた筈の超・鈴音だった。
「ふむ、どうやら成功したようネ」
言われ、ネギは周囲を見渡し、時計台で時間を確認するも胡散臭げな眼差しで超を見つめ、
「……まだ、大掛かりなトリックの可能性も棄てきれねえ」
「随分と疑り深い性格ネ」
「周りに性格の捻た奴が居たからな。疑って掛からねえと、こっちが痛い目を見る事が多かったんだよ」
思い出すのは稽古相手を努めてくれていた男の事だ。
……少し思い出しただけで、本当にロクな思い出は無かった。
ウンザリ気な溜息を吐き出すネギだが、そんな彼に構うことなく超は道端の人を指差す。
そこに居た人物を見たネギは驚きに目を見開いた。
「……マジかよ」
パレードを見ながら歩くのは、他ならぬネギ自身だ。
「これで信用して貰えたカナ?」
ネギは驚愕に目を見開き、突如叫んだ。
「俺ッ、参上ォ!!」
「いや、それはいいから、とにかく楽しんでくると良いネ」
昨日、助けて貰ったお礼だと送り出す超にネギは手を振りながら、
「おう、サンキュな♪」
そして雑踏の中に姿を消すネギは超から預かったマニュアルを読みながら時間を潰し、
「……世界樹の魔力を利用してるから、学祭のみの期間限定でしか使えねえのか。
しかも、跳べる時間は24時間が限界か」
マニュアルを読み終え、時計を確認すると時刻は約束の時間にまで迫っていた。
取り敢えずはパトロールだ。
約束を破ると高音が五月蠅い為、ネギは早足で待ち合わせ場所に向かう。
すると、そこでは何故か高音が一人待っているだけだった。
制服ではなく黒を基調としたシックな私服姿で立つ彼女の姿は、一見するとデート相手の彼氏を待っているようにしか見えない。
「よう、早ぇーな」
「貴方が遅いだけです。……せめて約束の時間の10分前には来るようにして下さい」
小言を言われるが、ネギはいつものように華麗にスルー。
周囲を見渡して、
「――佐倉もまだじゃねぇか」
「……いえ、メイでしたらナツメグの方で人手不足ということで手伝いに行きました」
それを聞いたネギは納得し、
「んじゃ、行くか……」
「えぇ」
連れ添って歩く二人だが、50mと歩かない内に、センサーに反応が現れる。
「……何処だ?」
「あちらです!?」
高音が指差す方向、そこではこれから告白しようとする一組の男女が居た。
どうやって処理しようかと高音が思い悩むんだ瞬間、ネギが躊躇いなく魔法の射手を放った。
撃たれた光弾は狙い違わず男子生徒の頭に命中。
そのまま二転三転して動かなくなった。
それを確認したネギは小さくガッツポーズを取り、
「良しッ!!」
「良しじゃありません! 一体、いきなり何をするんですか!?」
いきなり高音に怒られたネギはわけが分からないという表情で、
「何? って……、告白阻止」
それを聞いた高音は頬を引きつらせながら、
「もう少し、穏和な手段でおやりなさい!」
「……えー」
「……何ですか? その不満そうな声は」
「だって、ほらアレだぞ? 脈ありなら保健室で看病してもらえるじゃねえか!?」
「そう言う問題ではありません! 大体告白と言うのは物凄く勇気のいる行為なのですよ!?
その神聖な行為を邪魔しようというのですから、それなりの敬意を持って対応するのが礼儀というものでしょう!」
高音に説教されたネギは深く考え、
「なるほど、敬意か……」
そう言っている間にも、センサーに次の告白者が出た。
ネギは最大の敬意を表し、
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル――! 灰燼と化せ冥界の賢者! 七つの鍵をみょ〜!?」
高音に頬を引っ張られ、強引に詠唱を中断させられたネギは不満そうに高音を見つめるが、高音はそんなネギには取り合わず、
「今、どんな呪文を唱えようとしましたか!?」
「高等古代語魔法の砲撃魔法だよ。最大の敬意を表して跡形も残さず――」
「……もう、結構です。見てらっしゃい」
言い捨て、高音は“風花・武装解除”で女の子の帽子を飛ばしてエリア外に誘導する。
「ほう……、なかなか手際が良いな」
ネギには絶対に真似出来ない技だ。何せ彼の“風花・武装解除”は強力過ぎて確実に相手を全裸にしてしまう為、封印した程である。
「……貴方が力業過ぎるだけです」
呆れたように告げる高音だが、ネギに褒められた事が嬉しいのか? その頬は僅かに桜色に染まっている。
その後も数件の告白を妨害しつつ、休憩がてら飲み物を口にしながら高音がネギに問い掛けた。
「こ、この仕事が終わった後、何か御用はあるのですか?」
若干緊張気味に問い掛ける高音に対し、ネギは何の気負いもなく、
「四時から宮崎と約束があるけど、何か用事があるんなら手伝うぞ?」
のどかとの約束と聞き、胸に確かな痛みが走るのを自覚するが、高音はそれを何とか押し隠し、
「駄目です! ……約束があるのでしょ? ならば、そちらを優先させて下さい」
半ばムキになって告げる高音にネギは小首を傾げつつも、航時機がある事による絶対の余裕から、
「大丈夫だって、何とかなるから」
「なりません! ――というか貴方、宮崎さんがどれ程の勇気を振り絞って貴方を誘ったのか理解しているのですか!?」
「んー……、まあ、俺に惚れてるっぽいからなぁ、アイツ」
何気なく告げられたネギの言葉に高音は息を呑む。
「……気付いていたのですか?」
「木石じゃあるまいし、普通は気付くだろ?」
ネギは頭を掻きながら、
「他にも和泉やアーニャもそうだな」
意味深な目つきで高音を見つめ、
「……で? お前はどうしたいんだよ?」
「ッ!? わ、私は別に……」
慌てて何とか取り繕おうとするも、混乱し言葉が出ない。
そんな高音に向け、ネギは零すように告げる。
「まあ、今の所は誰とも付き合おうとかは思ってないんだけどな」
その言葉に高音は、安堵とも落胆とも取れる溜息を吐き出し、
「な、何故ですか? 和泉さんという方は存じませんが、宮崎さんもアーニャさんも容姿や性格にも何ら問題はあるような所は見受けられませんが?」
よもや、他に好きな人がいるのではないか? と邪推し、それはもしや自分の事ではないか? という考えにまで至るが、ネギはそれを一蹴するように、
「そんなんじゃなくてだな。
――やらなきゃならない事がある。その為には色恋沙汰にかまけてる余裕は微塵もねぇ」
遙かな高みを目指して告げるネギの言葉に高音は納得してしまう。
……その眼差しに惹かれたのでしょうね。
「貴方の恋愛感情です。お好きにするとよろしいでしょう。
――ですが、憶えておいて下さい。……貴方を好いている娘達は、貴方が恋愛に興味を持つまで待っている程大人しい者達ばかりではないという事を」
「まあ、他に好きな奴が出来たらそれも良いさ。
俺に強制する権利なんてもんは無いんだからな……」
自分の言葉を全く理解していないネギの台詞に高音は深々と溜息を吐き出しながらも、どこか清々しい表情で、
「貴方以上の男など、早々現れるものですか……。
私が言いたいのは、貴方が高みを目指すのであれば、私達もそれに付いていくという事です」
……そうすれば、何時までも貴方の近くに居られますから。
高音の言葉を聞いたネギは呆れた眼差しで、
「何だ……、やっぱりお前も俺に惚れてんじゃねぇか」
「わ、悪いですか!? 私も一人の人間です。人を好きになる事くらい――」
その先は、差し出された手によって止められた。
「ほれ、まだシフトの交代までは時間があんだ。
報酬分は働くぞ――、高音」
脱げ女ではなく、面と向かって呼ばれた名に高音は頬を染めながらも、ネギの差し出した手を取り、
「貴方一人では、怪我人を量産するだけですから。仕事中は私の指示に従ってもらいます」
「へいへい――」
そして二人はシフト変更の時間まで様々な手段を用いて告白を妨害し続けた。
……もっとも、高音の指示でちゃんとアフターケアは施して回ったが。
途中で告白生徒達を撃ちまくる龍宮・真名を発見し、ネギが背後で“やんま〜に(エンドレスVer)”をBGMで流したら、怒った真名に撃たれたというハプニングがあったりしたが、概ね大きなトラブルは無かった。
やがてシフトの変更時間が来て、仕事から解放されたネギと高音が歩いていると、
「……本当に宮崎さんとの約束を破ってしまってよろしかったのですか?」
心底、申し訳無さそうに高音がそう呟いた。対するネギは余裕の表情で、
「まあ、もうじきアーニャ達と合流する予定だから、面白いもん見せてやるよ」
悪戯を思いついた悪ガキの表情で告げるネギ。
通りの向こうからやって来るアーニャ・ネカネペアと合流し、彼女達を人気の無い路地裏へと招き寄せる。
「……何よ? こんな所に呼び込んで」
怪訝な表情で問い掛けるアーニャに答えず、ネギはカシオペアを操作し、彼女達に自分の身体に掴まるように告げると、航時機を発動させた。
●
−学祭初日・午前10時(3回目)−
再度、学園祭の開催時間に戻ったネギ達。
暗くなっていた空がいきなり明るくなった事に戸惑いを隠せない三人。
「こ、これは……」
呆然としている三人に説明する為に、ネギは手にした航時機を見せ説明する。
「タイムマシン――? そんな超科学が既に実現しているなんて……」
「でも実際に戻ってる以上、あるんでしょ?」
「それはそうなのですが……」
難しい顔をする高音だが、その不満を払拭するようにネギは明るい表情で、
「小難しい事はどうでも良いんだよ。
そんな事より、今度は遊ぶぞ――!!」
楽しそうに告げるネギに、一同は頬を緩めながら、
「仕方ないわね、付き合ってやるわよ」
「そう言いつつ、実はアーニャさんも楽しみにしていらっしゃるでしょ?」
「……まぁね」
「あらあら」
そして4人と1匹はネギの約束の時間まであらゆるアトラクションを遊び尽くした。
●
−学祭初日・午後4時−
「うぃーっす。待たせたな宮崎」
“イドの絵日記”を抱えて悶絶していたのどかに声を掛けるネギ。
彼女にしてみれば突然掛けられた声に、動揺し慌てふためくのどかだが、ネギは構うことなく、少し先で開かれている屋台の連なりを指差し、
「おッ!? 古本市やってるじゃねえか!? チクショウ、出遅れた! 行くぞ古本市!」
魔導書に限らず、基本的に本好きのネギはのどかの手を引いて古本市に駆け寄る。
「そ、そんなに急がなくてもー」
「バカ野郎! スピードスケートとボブスレーと古本市はスタートダッシュが命なんだぞ!?」
どこぞのザ・ペーパーみたいな事を叫びながら古本市の屋台に到着したネギは、デートそっちのけで物色を開始。
同行しているのどかも嫌がる事なく、むしろ嬉々として古本の物色に参加している。
「おっ、モモの原本見っけ♪」
ネギの取り出した本の表紙に見覚えのあるのどかは共通の話題に表情を輝かせ、
「ミヒャエル・エンデですか?」
「おう、主人公のモモが時間泥棒達から時間を取り戻す為に戦う話しだ。
お供に、亀と熊と竜が出てきて電車で時間移動するという――」
「か、亀までしか出てませんー!」
ネギのインチキ説明をのどかがすかさず訂正。
一拍の後、二人して笑い出した。
「いやいや、やっぱネタ分かってくれる奴が居るとボケがいがあるなぁ」
「きょ、恐縮です……」
言葉通り、身体を小さくするのどか。
そんな二人の様子を近くの茂みから観察する一団があった。
「……今の何処が面白かったか分かる人居る?」
困惑した表情で明日菜が問えば、
「い、いえ……、私、余り読書とかはしない方ですので……」
申し訳なさそうに刹那が答える。
他にはハルナ、このか、アーニャ、ネカネ、高音といった面子が見守る中、一時間以上も古本市で過ごすネギとのどか。
いい加減焦れてきたハルナが、どうにか二人の関係をエロイ方向へと向かわせようと動きかけた所で、背後からネカネに殴り倒された。
皆が恐怖に凍り付く中、それを成した女性は満面の笑みを浮かべたまま、
「デートまでは許します。でも……、それ以上の行為に至ろうとした場合、天罰が落ちると思って下さいね♪」
直前の拳は神の手によるものだと言い切るネカネに明日菜達はガクガクと首を縦に振る事しか出来なかった。
……本屋ちゃん、死に急がないでね!
皆がそう願う中、その思いが届いたのか? さして進展のないままにデートは進んでいく。
そして夜も更けた頃合い。湖面に描かれる光と炎のイリュージョン。
幻想的な光景を見ながら、のどかはこの場所が告白禁止地区外である事を確認し、
「あ、あのー……、ネギ先生」
「うん?」
マホラ・イリュージョンに気を取られたいたネギは、不意打ちのような問い掛けに慌てて振り向く。
「先生は今、好きな人とかいらっしゃいますでしょうかー……?」
「んー……、それって恋愛的な意味でか?」
「は、はい」
緊張した面持ちで返事するのどかだか、対するネギは何時も通りの表情で、さして気負う事もなく。
「……言うと思うか?」
意味深な目つきでそう告げる。
正面から見据えられたネギの眼差しにのどかは戸惑い、頬を染めるが、それでも口を開き言葉を放つ。
「わ、私、ネギ先生とこうしてお話してるだけでも幸せです……。
私、ホントにトロくてドジで引っ込み思案なんですけど……、先生が来てから色んな事があって、――その度にそれを乗り越えてきたネギ先生を見て、とても励ませれてきました。
……あんな辛い過去があるのに、それを臆面にも出さないで、頑張って夢を目指して行く先生に私は勇気を貰っているんです」
一息。
これまでネギが見てきた中で一番良い笑顔でのどかが告げる。
「私、そんなネギ先生が大好きです――」
流石に正面からストレートに告白されたのは初めてだったネギは少し照れながらも、何時も通りの平穏を装い、
「おう、知ってる」
「……え?」
告げ、視線を湖面のイリュージョンに向け、
「悪いけど、返事はまだしねぇ。――俺はまだ、やらなきゃならねえ事がしこたま残ってるんでな。
色恋沙汰にかまけてる余裕がねえんだ」
それを聞いてものどかは笑みを崩さず、
「はい! ――私、そんな夢に向かって一生懸命なネギ先生が好きなんです」
「――物好きなや」
その続きを言う前に、のどかの唇によってネギの口は封じられた。
直後聞こえてくる教え子達の悲鳴。
「本屋ちゃん、逃げてぇ――ッ!!!」
異口同音に放たれた複数の絶叫の聞こえてきた方を見れば、そこには殺ス笑ミを浮かべたネカネを必死に止めようとする明日菜達の姿があった。
それを見たネギは面倒臭そうに溜息を吐き、
「……宮崎、姉ちゃんは俺が何とかしとくから、お前は逃げとけ」
のどかはネギに一礼し、その言葉に甘えて走って逃げる事にした。
そんな少女を見送ったネギはネカネの元へ赴き、
「姉ちゃん、少し落ち着こうよ」
告げ、彼女の唇に触れるだけの軽いキスをする。
それだけで、ネカネの動きは停まり、次の瞬間には盛大に鼻血を吹いて崩れ落ちた。
そんなネカネの姿を目の当たりにした少女達が、呆然とその光景を見やる中、ネギは安堵の吐息を吐き出し、
「さて……、俺はこれからコタローが出るって言ってた格闘大会覗きに行って、野郎をからかいに行くけど、お前らはどうする?」
ネギが問い掛けると、特に予定の無い彼女達は皆、賛同の意を返した。
●
会場へ向かう最中、夕映や愛衣と偶然出会ったネギ達は一行に彼女達を加えて小太郎の参加する格闘技会場へと向かう。
すると、予選会場では小太郎が予定板に貼られた張り紙を見て、場所の変更となった予選会場へ向かおうとしている所だった。
「よう、まだ負けてねえのか? コタロー」
相変わらずの減らず口を叩くネギに対し、小太郎も軽口で答える。
「ハッ!? 俺を誰やと思とるんや? 右手1本だけでも優勝してみせるわ」
そう言ってから、会場の変更をネギ達に教える。
ここまで来たら、最後まで付き合うと言う少女達は、ネギ達と共に変更先の会場である龍宮神社に向かった。
そこで彼らを待ち受けていたのは、予想以上に多い参加者達の数と優勝賞金10,000,000円の文字。
その賞金額を見たネギは目の色を変え、
「賞金、一千万だと!?」
脇目も振らずに受付に向かおうとした。
それを明日菜は必死に引き留めながら、
「ちょっと、アンタ格闘技の経験なんかないんでしょ!? 魔法が使えないんだから、怪我しちゃうわよ!」
「心配無用! この間、修羅の門と修羅の刻、全巻読破した!!」
「それ漫画だって!?」
復活したハルナの突っ込みを受けていると、会場に司会進行役の朝倉・和美と主催者の超・鈴音が現れ、挨拶を始める。
「ようこそ!! 麻帆良生徒及び学生及び部外者の皆様!! 復活した“まほら武道会”へ!!
突然の告知に関わらず、これ程の人数が集まってくれたことを感謝します!!
優勝賞金一千万円!! 伝統ある大会優勝の栄誉とこの賞金、見事その手に掴んでください!!」
「……何で? 朝倉があんな所で司会やってんだ?」
ネギが疑問に小首を傾げるていると、主催者である超・鈴音が挨拶を始める。
「私が……、この大会を買収して復活させた理由はただ一つネ。
表の世界、裏の世界を問わず、この学園の最強を見たい。――それだけネ」
一息。
「20数年前まで――、この大会は元々裏の世界の者達が力を競う伝統的大会だたヨ。
しかし主に個人用ビデオカメラなど記録機材の発達と普及により、使い手達は技の使用を自粛、大会自体も形骸化、規模は縮小の一途をたどた……。
だが私はここに最盛期の“まほら武道会”を復活させるネ。
飛び道具及び刃物の使用禁止!! ……そして、呪文詠唱の禁止!!
この2点を守れば、いかなる技を使用してもOKネ!!」
それを聞いた高音や刹那達が慌てる中、ネギは一気にやる気を漲らせ、
「流石、俺の生徒! 良いこと言った!!」
刹那達の不安を払拭するように超の説明は続く。
「案ずることはないヨ。今のこの時代、映像記録がなければ、誰も何も信じない。
大会中、この龍宮神社では完全な電子的措置により、携帯カメラを含む一切の記録機器は使用できなくするネ。
裏の世界の者は、その力を存分に奮うがヨロシ!! 表の世界の者は、真の力を目撃して見聞を広めてもらえればこれ幸いネ!! 以上!」
刹那と高音達が相談している隙を付き、ネギは受付を済ませてしまう。
そんなネギに付き合うように、ネカネとアーニャも参加登録を済ませ、それに気付いた高音は憤りに振るえながら、
「こうなったら仕方ありません。……桜咲さん、私達も参加者として内部から探る方向で」
「――はい」
刹那、高音、それに付き合わせられる感じで愛衣の参戦が決定。
そして、丁度その場に居合わせた真名、楓、古菲も
「フフ、なかなか面白い事になっているようだな」
「面白い大会になりそーネ」
「一千万なら私も出てみるか。なぁ、楓」
「そうでござるなぁ……。バレない程度の力でなら……」
「出んな!? 帰れ、お前ら!」
全力で戦えるならばともかく、大会のルールで縛られた上での試合となるとネギが圧倒的に不利なである為、賞金獲得の障害となりそうな3人に対して叫ぶが、当然の如く無視された。
更には、
「ほう、賞金一千万か……。それはそれは、何処ぞのバカが滞納している家賃の足しにはなりそうだな」
「いやはや、なかなかに楽しそうだ。――そう思わないかね? ネギ君」
聞こえてきた声に振り向いてみれば、そこにはチャチャゼロを従えたエヴァンジェリンとヘルマンがいた。
「げ……」
呻き声を挙げるネギだが、彼の災難はそれで終わらない。
「ネギ君達が出るなら、僕も出てみようかな――」
「お前もか!? タカミチ!」
露骨に嫌そうな顔で告げるネギだが、タカミチは一向に気にする事もなく、
「いやー、ちょっと覗きにきただけだったんだけどね。
ネギ君が小さい頃、ある程度、力がついたら腕試ししようって約束してたから……」
「こういう大会でしようとすんな!? 後にしろ! 後に!!」
当然の如く、ネギの抗議は受け入れてもらえない。
それどころか、何を血迷ったのか? 明日菜まで、
「あ、あのっ……、高畑先生が出るなら、私も出ます!!」
「アスナ、ちゃんと考えてからモノ言ーてる?」
「……まあ、神楽坂なら別にいいや」
ネギの余裕とも言える態度に明日菜はカチンとくるが、既に彼は完全魔法無効化能力対策を講じており、しかも先日のネギ(小)奪還作戦において、それは見事に有用である事が証明されているので、彼の自信もあながち間違いではない。
だが、明日菜とてあれから更に修行を積み、新たな必殺技を開発しているのだ。
「――絶対に吠え面かかせてやるから、首洗って待ってなさいよネギ!!」
……こうして、まほら武道会は開始される。
●
予選会のルールは20人一組のバトルロイヤル。
武闘派の連中が無難に勝ち進んでいく中、純魔法使いのネギは……、
「俺の勝ちは分かってるんだから、シードにしろシードに」
不平タラタラに零す言葉が聞こえたのか? 周囲の参加者達から一斉に視線を向けられる。
それでもネギは物怖じすることなく、平然とした態度で試合開始の合図を待つ。
そして――、
「ではB組、人数揃いました。――試合開始!!」
朝倉の声と共に、
……“風花・風塵乱舞”!
ネギの無詠唱呪文が発動。
突如吹き荒れる突風に、参加者達が試合会場から吹き飛ばされる。
「こ、これは……!! いきなり吹き荒れた謎の突風に、参加者達が場外に飛ばれたぁ――!!
これにより、B組は本戦出場者決定!!」
……芝居がかってんな朝倉の奴。
苦笑を零すネギに、背後から声が掛けられる。
「なかなか良い魔法の選択です」
気配すら無い所から掛けられた声に慌てて振り向くと、そこにはフードを目深に被った男が立っていた。
ネギは警戒したまま、
「何者だ、アンタ?」
問い掛けると、男は微笑を浮かべ、
「クウネル・サンダースとお呼び下さい。ネギ・スプリングフィールド君。
――君とは、本戦で戦える事を祈っていますよ」
そう言い残し、その場から消え去った。
……高速移動じゃねぇな。無詠唱の転移魔法?
相手の実態が掴めず、眉根を寄せるネギだが、
……一回戦で、エヴァかタカミチ辺りとぶつかって潰しあってくれねぇかな?
そんなせこい事を考えながら、ネギも予選会場を後にした。
――そして遂に出揃った本戦参加者16名。
厳正なる抽選の結果、決定したトーナメント表は、
第一試合:佐倉・愛衣VS犬上・小太郎
「む、無理ですぅ――。絶対に勝てません、お姉さまぁ!!」
「……何や、やりにくい相手に当たってもうたな」
第2試合:ヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマンVSクウネル・サンダース
「ふむ……、これはこれは」
「おや? いきなり、あの方ですか?」
第3試合:長瀬・楓VSアンナ・ユーリエウナ・ココロウァ
「いきなりアーニャ殿でござるか」
「んー……、修行の成果、試してみるつもりでやりますか――」
第4試合:龍宮・真名VS古菲
「――ハハハ」
「アイヤー! 初戦で真名アルか!?」
第5試合:田中VS高音・D・グッドマン
「――――」
「何としても、勝ちにいきますわよ!」
第6試合:ネギ・スプリングフィールドVSタカミチ・T・高畑
「よりにもよって、タカミチかよ!?」
「いやー楽しみだねぇ、ネギ君」
第7試合:神楽坂・明日菜VS桜咲・刹那
「わ」
「あ、アスナさんとですか……?」
第8試合:エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルVSネカネ・スプリングフィールド
「ふん、面白い」
「あらあら♪」
こんな対戦表で、明日の本戦は行われる事となった。