香霖堂繁盛記
 
書いた人:U16
 
第7話 閻魔様のアルバイト
 
 幻想郷と呼ばれる閉鎖された世界がある。
 
 この世界とは見えない壁一枚を隔てた所にある異世界。
 
 そこでは、人間だけでなく妖精や幽霊、吸血鬼に妖怪、更には宇宙人や死神、閻魔様に神様までもが存在していた。
 
 その幻想郷の魔法の森と呼ばれる湿度の高い原生林の入り口に、ポツンと建てられた一件の道具屋。
 
 掲げられている看板には香霖堂の文字。
 
 店の中に入りきらないのか? 店の外にも様々な商品が乱雑に積み重ねられている。
 
 ここ香霖堂は、幻想郷で唯一、外の世界の道具も、妖怪の道具も、冥界の道具も、魔法の道具も扱っている店であるが、外の世界の道具に関しては誰にも使い方が分からないため余り売れていないらしい。
 
 というか、僅かに使用方法の分かった外の世界の道具は、全て店主である森近・霖之助が自分のコレクションに加えてしまうので、商売としては成り立っていない。
 
 まあ、そんな感じで、ここ香霖堂は今日ものんびりと適当に商売していた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「貴方は少し、お客を疎かにしすぎる」
 
 それが店に入ってきた少女の第一声だった。
 
 今、カウンター越しに霖之助の前に立つ少女は、外見こそ幼いものの、身に纏うものは是非曲直庁における上級職の制服。頭には地獄の裁判官の証でもある冠を被っている。
 
「客が来たというのに、最初に「いらっしゃい」と言ったきり見向きもしないで読書に戻るとはどういうつもりですか?
 
 それにお店の棚にもうっすらと埃が積もっているようですし、本当に掃除をしているのですか?
 
 大体、ここの商品は拾ってきた物が殆どなのでしょう? それを高値で売りつけるとはどういうつもりですか? 恥を知りなさい恥を……、ってコラ」
 
 手にした板……、悔悟の棒で霖之助の頭を叩く。
 
 そこでようやく霖之助が本から視線を上げて閻魔……、四季・映姫・ヤマザナドゥに視線を向けた。
 
「……どうかしましたか?」
 
 その一言に映姫のコメカミ辺りに血管が浮かび上がりそうになるが、それよりも早く霖之助が客用の湯飲みにお茶を注ぎ、
 
「どうぞ……」
 
 映姫に差し出した。
 
「あ、どうもすみません」
 
 小さく頭を下げて湯飲みを受け取り一口を啜る。
 
 すると映姫は眉を顰めて、
 
「……薄いですね。正直、客に出す物としてはどうか? と思いますが」
 
「いやいや、お恥ずかしい話ですが……、実は経営が苦しくて満足にお茶を出すことも出来ないような状況でして」
 
 聞けば、ツケを払わない巫女や黙って品物を持っていく魔法使いなどが常連に居るとの事。
 
 映姫は溜息を吐き出し、
 
「確かに彼女達も悪いです。ですが、この店の防犯姿勢もなっていない。貴方がしっかりしてさえいれば、彼女達も犯罪行為を犯さなくて済むのです。
 
 このままでは死後、地獄に墜ちかねません。それを危惧するのであれば、貴方も少しはしっかりしなさい。
 
 そもそもお金というものは、通貨としてだけではなく、人と人を繋ぐという意味もあるのです。
 
 無駄に蓄えろとは言いませんが、少しは流通を心掛けるべき──」
 
 と映姫の説教は続いていたが、霖之助は誤魔化しが失敗した事に内心で溜息を吐き、半ば諦めて映姫の説教に耳を傾けた。……振りをして殆どを聞き流していた。
 
 ……それから3時間後。
 
 ようやく説教が終わり、映姫は満足げな表情で帰っていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ──2ヶ月後。
 
 霖之助が真面目に仕事をしているのかを確認しに再び香霖堂を訪れた映姫だが、そこで彼女が見たものは、以前と変わった様子の見られない霖之助の対応だった。
 
 映姫と視線を合わせる事なく、黙々と読書を続ける霖之助。
 
 閻魔様は諦めと諦観の籠もった溜息を吐き出し、
 
「……どうやら貴方には幾ら口で言った所で意味はないようですね」
 
 そう告げると店の中をざっと見渡し、商品の中から子供用の地味な小袖を手に取ると、
 
「少し、奥の部屋を借ります」
 
 霖之助の返事も待たず、服を持って奥の部屋へと消えた。
 
 それから暫く服を脱ぐような衣擦れの音が聞こえてきたが、霖之助は気にする事無く読書を続け、偶に思い出したようにお茶を啜る。
 
 ……10分後、先程持っていった緑色の生地の小袖に白の前掛けという恰好をした映姫が霖之助の前に現れた。
 
 それには流石の霖之助も読書を中断し、
 
「……その恰好は一体」
 
「えぇ、ですから貴方には口で何を言っても無駄だと判断しましたので、これから私が働く事で商売に対する心構えの見本をお見せしようというのです」
 
 薄い胸を張って告げると返事も聞かない内にハタキを手にとって商品棚の掃除を始めた。
 
 対する霖之助は仕方なく立ち上がって換気の為の窓を開けると、それを見た映姫は彼が手伝う気になってくれたと頬を綻ばせるが、霖之助はそのままカウンターに腰を下ろして再び読書を始めてしまう。
 
 どうやら舞い散る埃が読書の邪魔だっただけらしい。
 
「あ、貴方という人は……」
 
 説教を始めようとした映姫だが、けたたましい音を発ててカウベルが鳴り響き、同じように乱暴に開け放たれたドアから白黒の魔女と紅白の巫女が入ってきた。
 
 映姫は慌てて営業用スマイルを浮かべると、
 
「いらっしゃいませ。本日はどのような物をお探しでしょうか?」
 
 二人の少女は、見ない顔の少女に不審げな顔をするが、対応に出た少女が顔見知りの閻魔である事に気付くと訝しげな表情で彼女を指さし、
 
「なんで閻魔が、こんな店で店員の真似事なんてやってるんだ?」
 
 との魔法使いの問いに、映姫は堂々とした態度で、
 
「こちらの店主に、商売というもののお手本を見せているのです」
 
 迷い無く言いきる彼女に対し、紅白黒は互いに顔を見合わせて小さく頷き、
 
「あー……、急用を思い出したんで、また来るぜ」
 
「私も、神社の掃除の時間だわ」
 
 気まずそうに告げて、彼女達にしては珍しく、何も盗らずに帰って行った。
 
 そんな二人を黙って見送った映姫は小さく溜息を吐き出し、
 
「残念です。折角、お客が来たと思ったのに……」
 
 少し気落ちする映姫に対し、その一部始終を見ていた霖之助は思案顔で、
 
 ……そうか、彼女が居てくれれば霊夢や魔理沙は迂闊に商品を持っていく事が出来ないんだな。
 
 彼女の説教は始まると長い事は、魔理沙達も良く知っている。しかも、力ずくで強奪しようとしても、映姫の力はかなり強いので下手をすれば商品を持ち出せないばかりか、自分も怪我を負いかねない。
 
 正直な話、そこまでして手に入れたい商品は香霖堂には無いのだ。
 
 彼女達が香霖堂に押し掛ける理由は、彼に構って欲しいからであり、商品の強奪はそのオマケに過ぎない。
 
 だが、そんな少女達の本心に微塵も気付かない霖之助は、映姫の存在こそが最高の防犯装置なのでは? と思い始めた。
 
 ……掃除もしてくれるし、口うるさいのさえ我慢すれば、彼女こそ最高の店員じゃないか。
 
 そう結論づけた霖之助は何とか彼女を正式に雇えないものか? と画策し始める。
 
 そんな事を店主が考えているとも知らない映姫は、健気にも店の掃除を再開。そうこうしている内に、珍しい事に新たな客がやって来た。
 
「いらっしゃいませ。何をお探しでしょうか?」
 
 満面の営業用スマイルを浮かべて挨拶を投げ掛ける映姫。
 
 対する客は霖之助以外の出迎えであった事が余程驚きだったのだろうか? それとも映姫が売り子恰好をして店番をしていたのが驚きだったのだろうか? 目をパチクリさせて彼女の姿を凝視していたが、やがて我に返ると口元に小さな笑みを浮かべ、
 
「あらあら、可愛い売り子さんね」
 
 からかうように告げた客は、ボリュームのある長い銀色の髪を一本に纏め、赤と青の対照的な衣装に身を包んだ女性だ。
 
 月の民達の隠れ家、永遠亭の薬師。八意・永琳。
 
「いや、ホント。似合ってるわよ、閻魔様」
 
 からかわれているのが分かり歯噛みする映姫。
 
 本来ならば、ここで反論の一つでもしてやりたい所であるものの、今の彼女は香霖堂の店員。店主に商人としての見本を見せると言った以上、客を相手に怒鳴るわけにはいかない。
 
 映姫は小さく深呼吸すると精一杯の愛想笑いを浮かべて簡単に事情を説明し、店員としての対応をとる。
 
「そ、それでお客様。本日は一体何をお探しでしょうか?」
 
 対する永琳は笑みを浮かべたままで、
 
「頼んでおいた調薬用の器具の期日が、確か今日だったと思うのだけど?」
 
 言われ、映姫がカウンターに振り返ると、いつの間にか霖之助は読んでいた本を閉じてカウンターの下から両手で持てる程度の箱を取り出していた。
 
「どうぞ、確認してください」
 
 言いながら、箱の蓋を開けてみせる。
 
 永琳は笑みを収めて真剣な表情で器具を手に取って品物の確認を開始。映姫の素人目から見ても、その器具には不備が見られないように思えた。
 
 現に確認の終わった永琳も満足げな表情で、
 
「相変わらす良い仕事をしてるわね」
 
「それはどうも……」
 
 褒められているのにも関わらず、余り嬉しそうではなく、再び本を読み始める霖之助。
 
 正確には本を読む振りをしつつ、如何に映姫を店員にするか? を考えているのだが、如何な閻魔とはいえ、浄瑠璃の鏡も使わずにそこまでの事は看破出来ない。
 
 なので、霖之助の態度が純粋に納得出来なかったのか? 映姫はカウンター席の彼に詰め寄り、
 
「折角、褒められたというのに、少しは嬉しそうな顔をしたらどうなのですか?
 
 そんな愛想の無い事だから、客足が遠のくのです。
 
 良いですか? 客商売の基本は笑顔で対応。貴方のように無愛想に本ばかり読んでいたのでは何時か誰も買い物に来てくれなくなりますよ? って聞いているのですか!?」
 
 糠に釘、暖簾に腕押しといった様子の映姫と霖之助。
 
 そんな二人を面白そうに眺めていた永琳は含み笑いを堪えつつ、
 
「そんなに心配なら、いっその事、閻魔を辞めてこのお店に就職したら?」
 
 映姫にとって閻魔の仕事は生き甲斐だ。けっして辞めようなどとは微塵も思わない。永琳の言葉に、反論しようとする映姫だが、それよりも早く霖之助が口を開いた。
 
「それは良いね。……とはいえ、そんなに給金は払えないから、三食と寝床の提供くらいしか出来ないんだが」
 
 チャンスとみた霖之助が、ここぞとばかりに映姫に転職を勧めてみる。
 
 今度は霖之助に対し、反論の言葉を放とうとした映姫だが、それを遮るように永琳が彼女に耳打ちしてきた。
 
「聞いた? 今のって、遠回しなプロポーズじゃないかしら?」
 
 言われてみれば、そうとれなくもない。
 
 生まれてから数百年。……道祖神であった頃を含めると千年以上。仕事一筋に生きてきた彼女は、異性からプロポーズされた事など一度も無い。  
 
 始めての経験に、一瞬で顔を真っ赤に染めて、盗み見るように横へと視線を向けてみる。
 
 そこでは真剣な眼差しで映姫の返答を待つ霖之助の姿。
 
 赤かった顔を更に赤くして、映姫は「あうあう」と言葉を詰まらせながら、
 
「し、失礼しますッ!!」
 
 着の身着のままで店を飛び出して行ってしまった。
 
「あら? ちょっとからかい過ぎたかしら?」
 
「あぁ……。防犯装置が……」
 
 この男、そんな事を考えていたのか? と半ば呆れた眼差しを霖之助に投げ掛けるが、面白そうなので暫く黙っておこうと密かに思う永琳だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 翌日から何時も通りの閻魔の仕事に戻った映姫だが、仕事に余裕が出来ると、どうも先日の霖之助の言葉を思い出してしまう。
 
 そして、そんな時に限って、部下の小野塚・小町が仕事をサボるので、時間に空きが出来てしまい、昨日の事を考えてしまうのだ。
 
 ……私が古道具屋の店員ですか。
 
 仮にそうなった時の事を想像する。
 
 気立ての良い店員という事で評判になり、看板娘と呼ばれるようになって、繁盛しだす香霖堂。
 
 そうなると、霖之助も心を入れ替えて真面目に商売するようになり、店も徐々に大きくなっていく。元々、道具作りの才能はあるのだ。彼が本気で商売に取り組むようになれば、幻想郷一大きな商家になるのも時間の問題だろう。
 
 人を新たに雇い(何故か小町だった)、自分は妻として霖之助を支える役を担うようになり、やがて子供も出来、幸せな家庭を築いていく人生。
 
 ……子供はやはり二人は欲しいですね。一姫二太郎とも言いますし。いやいや、彼が望むのでしたら三人でも四人でも構いませんが。
 
 名前は香姫と映之助……。いやいや、香姫はともかく映之助は少し語呂が悪いですね。ここはやはり旦那様の意見も聞くべきですか。
 
「……あのー、映姫様?」
 
「何ですか? 小町。貴女にまだ仕入れは任せられませんよ。分かったら、早く蔵の整理をしてきなさい。それが終わったら、今度は客引きですよ」
 
「すみません映姫様。何言ってるか、全然意味が分かりません」
 
 大体、船頭の仕事に、仕入れやら蔵の整理やら客引きは全く関係ない。
 
 そこでようやく妄想と現実がごっちゃになっている事に気付いた映姫は、取り繕うように咳払いをすると、
 
「す、すみません。少し疲れていたようです」
 
 そう告げて小町を下がらせ、彼女の連れてきた幽霊の裁判を開始した。
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 そんな感じで、次の休日。
 
 先日、借りっぱなしだった服の返却と忘れていった制服を取りに行くという名目で再度、香霖堂を訪れた映姫だったが、そこで見たのは今までと何ら変わったところの見られない霖之助の態度だった。
 
 映姫は溜息を吐き出すと、
 
「全く、貴方は本当に商売をしようという気持ちがあるのですか? 本当にもう……」
 
 再度溜息を吐き、何かを思案すると、
 
「分かりました。……ちょっと待ってなさい」
 
 そう告げて、返しにした服を持ったまま奥の部屋へと上がり込んでいく。
 
 ……10分後。霖之助の前には先日と同じ、緑色の小袖に白い前掛け姿の映姫が立っていた。
 
「決めました。貴方が真面目に商売を始めるまで、休日は私がお店の手伝いに来ます。
 
 ──良いですね?」
 
 否と言った所で彼女は聞かないのだろうし、何より霖之助にしてみれば、彼女の存在は泥棒対策に有り難いことこの上ない。
 
 霖之助から色好い返事を貰らい、機嫌を良くした映姫だが、照れ臭いのか? それを表情に出さないように努力しつつ、掃除を始める。
 
 が、掃除を始めて10分もしない内に来客があった。
 
「霖之字居るかい? 無縁塚で珍しい物拾ったんで、酒と交換に来たよ」
 
 ドアを潜ってやって来たのは、風呂敷を背負った長身の女性。
 
 赤い髪をツインテールにして、是非曲直庁における下級職員。……三途の川の船頭の制服を身に纏い、刃先が歪んだ大鎌を携えた死に神。
 
 映姫の直属の部下、小野塚・小町だった。
 
 彼女は最初、対応に出た映姫を見てもそれが自身の上司だとは気付かなかったらしく、
 
「ありゃ? 店員雇ったのかい? そんな儲けがあるような店には思えないんだけどねぇ」
 
 カラカラと嫌みの無い笑いを浮かべながら、店員の頭を軽く叩く小町。
 
 霖之助は小町から品物の入った風呂敷を受け取ると、その鑑定を始める。
 
「しかし、映姫様に良く似てる娘だねぇ。アンタはあんな説教臭くなるんじゃないよ。って言っても分かんないか」
 
 一頻り映姫の頭を叩きまくると、それで落ち着いたのか? 今度は膝を折って彼女と視線を高さを合わせて顔を凝視し、
 
「いや、ホント。それにしても映姫様に良く似てるわ。──ひょっとして映姫様の隠し子だったりして」
 
 自分で言っておいてツボに入ったのか? 腹を抱えて笑い始めた小町。
 
 そんな小町が致命的なミスを犯す前に、せめてもの情けとばかりに霖之助は真実を教えてやる。  
 
「本人だよ」
 
「……へ?」
 
「だから、彼女は君の上司で、幻想郷担当の閻魔様だと言ったんだ」
 
 その間、霖之助は小町の方を一瞥もせずに、黙々と彼女の持ち込んだ商品の鑑定を行っている。
 
「ま、またまたー。アンタそんなギャグ言うようなタイプじゃないだろ? 霖之字」
 
 霖之助の言葉に冷や汗を掻きながらも、必死にそれを否定しようとする小町。
 
 しかし、そこに来て始めて店員の少女が口を開いた。
 
「……すみません。悔悟の棒と、私の冠を取ってもらえますか?」
 
 物凄く、聞き覚えのある声だ。
 
 そして霖之助が奥の部屋から持ってきた物は、物凄く見覚えのあるセットだ。
 
 少女は霖之助から渡された冠を被り、両手で悔悟の棒を持つと、
 
「……さて、小町。貴女、今日は仕事の筈でしたよね?
 
 何故、今の時間にこんな所に居るのですか?」
 
 感情の起伏の無い、平坦な声で告げられる。
 
「え、映姫様?」
 
「何ですか? 言い訳があるなら聞きましょう」
 
 悔悟の棒に次々と罪状を書き連ねていく映姫。
 
 聞いた所で、絶対にシバかれると判断した小町は暫く考え、2秒で結論。
 
「……に、似合ってましたよ?」
 
 直後、小町の悲鳴が魔法の森に響き渡った。
 
 
 
   
 
 
 
 
 
 
 ──30分後。
 
 辛うじて人の形を保ったままのボロクズを持った映姫は霖之助に頭を下げると、
 
「すみません。今日はこれで帰らせてもらいます。ほら、ちゃんと立ちなさい小町。
 
 帰ったら、説教ですからね」
 
「きゃ、きゃん」
 
 尻を蹴飛ばされながら帰路に着く死神と閻魔。
 
 残された店主はカウンターの上に置かれた商品を見てほくそ笑む。
 
 商品の名は使い捨てカメラ。
 
 これとよく似たものを以前にも拾っており、使い方は妖怪の山に引っ越してきた巫女から教えて貰っているので分かる。
 
 それが風呂敷いっぱい分、入荷されたのだ。……しかもタダで。
 
 ……やはり、彼女は閻魔なんかより、この仕事に向いているな。
 
 改めて映姫の転職を真剣に考え始める霖之助だが、今はそれよりも大事な事がある。
 
 使い捨てカメラの現像には、天狗の技術が必要不可欠だという事だ。
 
 次に文々。新聞が配達に来た時にでも話を持ちかけてみよう。
 
 そう考えながら、霖之助は読みかけの本を手に取った。
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