香霖堂繁盛記
 
書いた人:U16
 
第25話 人間の星座と妖怪の星座
 
 幻想郷と呼ばれる閉鎖された世界がある。
 
 この世界とは見えない壁一枚を隔てた所にある異世界。
 
 そこでは、人間だけでなく妖精や幽霊、吸血鬼に妖怪、更には宇宙人や死神、閻魔様に神様までもが存在していた。
 
 その幻想郷の魔法の森と呼ばれる湿度の高い原生林の入り口に、ポツンと建てられた一件の道具屋。
 
 掲げられている看板には香霖堂の文字。
 
 店の中に入りきらないのか? 店の外にも様々な商品が乱雑に積み重ねられている。
 
 ここ香霖堂は、幻想郷で唯一、外の世界の道具も、妖怪の道具も、冥界の道具も、魔法の道具も扱っている店であるが、外の世界の道具に関しては誰にも使い方が分からないため余り売れていないらしい。
 
 というか、僅かに使用方法の分かった外の世界の道具は、全て店主である森近・霖之助が自分のコレクションに加えてしまうので、商売としては成り立っていない。
 
 まあ、そんな感じで、ここ香霖堂は今日ものんびりと適当に商売していた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「……ここが博麗神社」
 
「えぇ、遂にここまで来たわねメリー」
 
 深夜の博麗神社。
 
 とは言っても、ここは幻想郷ではない。
 
 外の世界の博麗神社だ。
 
 既に信仰を失って久しいのか? 石畳の隙間からは雑草が伸び、朱塗りだった鳥居は朽ち果て、境内も荒れ放題に荒れている。
 
「新月の午前2時。あっちの世界とこっちの世界の境界がもっとも弱まる時刻」
 
「えぇ、その瞬間に私が幻想郷へと至る隙間を見つければいいのね?」
 
 会話するのは二人の少女だ。
 
 片や白のシャツに黒のスカート。スカートと同じく黒の帽子にネクタイといった姿の見た目だけで活発そうな印象を受ける少女の名は宇佐見・蓮子。
 
 もう一人は藍色を主体としたワンピースを纏った外国人の少女だ。
 
 金色の髪と蒼い瞳を持つ少女の名はマエリベリー・ハーン。愛称はメリーという。
 
 二人は互いの手を握り合い一度だけ視線を交わすと力強く頷き、蓮子が視線を空へと向ける。
 
「現在の時刻は、午前1時59分51秒、52秒53秒」
 
 やがて彼女のカウントダウンが2時を告げ、それまで目を伏せていたメリーが瞼を開き懐中電灯のか細い灯りを頼りに周囲を見渡し、
 
「……見えたわ」
 
 一息、
 
「行きましょう蓮子。幻想郷へ……!」
 
「えぇ!!」
 
 そして二人の少女は向こうの世界へと向かった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「……さてと、どうしたものかしら?」
 
 昼の魔法の森に、蓮子の呟きが響く。
 
 博麗神社を降り、周囲の散策をしていた時の事だ、「貴女達は食べても良い人類?」と物騒な事を言う空飛ぶ少女に遭遇した。
 
 取り敢えず、危険を感じたので二人で逃げたものの、その途中で相方とはぐれてしまったのだ。
 
「多分、メリーの事だから大丈夫だとは思うけどね」
 
 多少、鈍臭い所があるものの、最近より強くなってきた彼女の能力があれば、大抵の相手からは逃げ果せる事が出来るだろう。
 
「……となると、問題は私の方か」
 
 溜息を吐きながら木々の間から見える青空を見上げる。
 
「――私の能力って、昼間は完全に役立たずよねー」
 
 自分で言って苦笑が込み上げてきた。
 
 何しろ、星と月を見て現在地と時刻が分かるという能力だ。
 
 その能力自体は全般的に信用してはいるものの、月も星も見えない昼間では何の役にも立たない上に、先程のような物騒な少女に襲われたとしても、何の足しにもならない。
 
 ……せめて、手から光線がぶわぁー! とか出たりする能力だったらねぇ。
 
 と考えるが、乙女的にそれもどうだろう? と思い直して再度苦笑を浮かべる。
 
「とにかく、今はこの森から抜け出さないと……。湿気が多くて息苦しいし、何だか気持ちも悪くなってきたし……」
 
 幸いにも、今彼女が歩いている魔法の森は、妖怪も余り出没しないような場所だ。
 
 妖怪以外では、魔法使いや妖精なども出没するが、運が良いのか? それとも悪いのか? そのどちらとも出会う事無く無事森を抜け出す事が出来たのは僥倖と言うべきか?
 
「……やっと抜けられたぁー!」
 
 思わずガッツポーズを取る蓮子。
 
 大きく深呼吸し、鞄からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して喉に流し込んで人心地吐き、僅かな休憩の後、道なりにそって歩き始めると、暫くしてガラクタに囲まれた奇妙な建物が見えてきた。
 
「……人が住んでるのかしら?」
 
 建物の入り口には大きく“香霖堂”という看板が掲げられている。
 
 ……お店?
 
 一見しただけでは、ゴミ屋敷に見えない事もないのだが、看板が掲げられている以上、そこは店なのだろう。
 
 恐る恐る足を向ける蓮子。
 
 店である以上、いきなり襲いかかられる事は無いだろうとは思うが、一応の警戒をしつつ扉を開けた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「いらっしゃい。……初めてのお客さんだね」
 
 蓮子を出迎えてくれたのは眼鏡を掛けた男性だった。
 
 一言では形容しがたい、着物と中華風の衣装を組み合わせたような青と黒の服を着た銀髪の青年。
 
「ここは、香霖堂。見ての通り古道具屋だ。
 
 もっとも、注文があればマジックアイテムの制作から服の仕立てまでこなすけどね」
 
 気に入った物があれば、買っていってくれるとありがたい。と言ったきり、青年は手元の道具へと視線を移し手入れを再開し始める。
 
 蓮子もそんな霖之助の素っ気ない態度を気にするでもなく店内の散策を始めるが、彼女が興味を示したのは、型遅れとなった外の道具ではなく霖之助が現在整備している道具だ。
 
「あの……、それ何ですか?」
 
 黙々と作業を続ける霖之助に問い掛けると、彼は手入れの手を止めて視線を上げ、
 
「これかい?」
 
 言って、手に持っていた道具を掲げ、
 
「これは渾天儀。宇宙を知る為の道具だね。……見てみるかい?」
 
 問われた蓮子は目を輝かせて頷き、慎重な手つきで霖之助から渾天儀を受けとると、それを観察し始めた。
 
「この筒を覗くんですか?」
 
 何時ぞやと違い、錆を落とされ油を差された渾天儀は、道具本来の動きを取る事が出来る。
 
「この摘みを回すと……、なるほど、良く出来てるなぁ……」
 
 自らの能力と関係する事もあってか、星や月に関してはそれなりに博識な蓮子としては、この道具はとても興味深い。
 
 一頻り感心しながら渾天儀を覗き続ける蓮子だったが、不意に彼女の動きが止まる。
 
「どうかしたのかい?」
 
 霖之助が問うと、蓮子は筒から目を離し、眉を下げた表情で、
 
「ここに書かれてる星座の名前が、私の知ってるものと一致しないんですけど」
 
 北斗七星が天龍座とあり、北極星は不動尊となっているだけでなく、オリオン座は伊吹童子座、白鳥座は釣瓶落とし座、牡羊座は火炎婆座、カシオペア座は手の目座、三角座は雪入道座、などというように改変されている。
 
 我が意を得たりと頷く霖之助は蓮子から渾天儀を受けとり、
 
「何しろこれを作ったのは人間ではなく妖怪だからね。天文学にしても、人間のソレとは一線を画するよ」
 
 曰く、千年前には既に妖怪は月に赴いていたらしい。
 
 独自の進化を遂げた妖怪の天文学に興味が沸いたのか? 再度、霖之助から渾天儀を借りて食い入るように見つめ出す蓮子。
 
 とはいえ、如何にオカルトサークル“秘封倶楽部”のメンバーとはいえ、蓮子の持つ妖怪の知識はそれ程深く無い。
 
 ろくろ首やのっぺらぼうと言ったメジャー所は知ってはいるものの、マイナーな妖怪になるとサッパリ分からなくなる。
 
「……この伊吹童子ってどんな妖怪なんですか?」
 
 問われた霖之助は深く考える事も無く、カウンターに載っていた新聞を手に取り、
 
「この写真の少女が伊吹童子……、件の妖怪、伊吹・萃香だね。
 
 一見すると小さな女の子にしか見えないが、頭から生えている角は飾りじゃ無い。正真正銘、本物の鬼だよ」
 
「……鬼」
 
 普通の人間ならば、俄には信じられないような事であろうが、オカルトサークルなどというものを設立した蓮子からすれば、むしろドンと来いという表情で次の星座を指さし、
 
「こっちの釣瓶落としは?」
 
 その問い掛けに対し、霖之助は徐に席を立つと店内に置いてあった大きな壺の所まで歩み寄り、その中に手を突っ込んだ。
 
「…………?」
 
 意味が分からず小首を傾げる蓮子に対し、霖之助が壺から手を引き抜くと、そこには一人の小柄な少女がぶら下がっていた。
 
「この娘が釣瓶落としだ」
 
「き、キスメです。ギイギイ」
 
 突然の出来事に、おっかなびっくりしながらも取り敢えず自己紹介するキスメ。
 
 それで満足したのか? 霖之助はそのままキスメを壺の中に戻し、
 
「じゃあ、次に行こうか」
 
 これ以上、彼女に関して説明する事は無いとばかりに強引に話を進めた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 蓮子が店にやって来て、かれこれ二時間程経過しているが、その間、蓮子は霖之助に質問をし続け、霖之助も知りうる限りの知識を持って彼女の疑問に答え続けた。
 
「へー……。それじゃあ、その八雲・紫っていう妖怪が、この道具を作ったんですか」
 
「制作ではなく著作とあるから、正確には彼女が作ったのではなく、彼女が設計した。と言う方が正しいだろうね」
 
「なるほど……」
 
 頷きながら、メモ帳にペンを走らせる。
 
「それで? その八雲・紫ってどんな妖怪なんですか?」
 
 新たに投げ掛けられる質問に対し、霖之助は僅かに思案すると、
 
「そうだね……。幻想郷でも屈指の力を持った妖怪で、何千年という長い刻を生きている。
 
 主に境界を操る程度の能力を持っていて、幻想郷と外の世界との結界……、博麗大結界を構築したのも彼女だ」
 
「……境界を操る程度の能力」
 
 その言葉に何か感じるものがあったのか? メモを取る蓮子の手が止まる。
 
「ん? ……どうかしたのかい?」
 
「あ、いえ!? 何でもないです!」
 
 慌てて取り繕う蓮子。霖之助としても、無理に聞き出すような真似はするつもりもない。
 
「僕としても、冬場の燃料なんかで色々と世話になっているから頭が上がらないというのも確かだね」
 
「あら。そんな程度の事、お気になさらないでも結構ですのに」
 
 突如、背後から聞こえてきた第三者の声に蓮子がビクリと反応し、慌てて背後を振り返ろうとするも、何故か身体が動かない。
 
 ……何、これ!?
 
 背後から感じる圧倒的な存在感。その正体は、
 
「何時も言っている事だが、ちゃんとドアから入って来てもらいたいね、紫」
 
「……最近は、驚いてもくれないからつまりませんわ」
 
 拗ねたように告げるのは、先程話題に上がっていた妖怪、八雲・紫だ。
 
「充分、驚いてるよ。――それで? 今日は一体、何の用だい?」
 
 蓮子の視点からでは霖之助の眼鏡に反射した姿しか見えないが、それでも背後に居る女性が普通の存在では無い事を直感的に理解する。
 
「えぇ、幻想郷に迷い込んだ外来人を外の世界に戻してあげようと思いまして」
 
「珍しいね。態々そんな事で君が自ら動くなんて」
 
 基本的に、迷い込んだ外来人に対しての措置は放置だ。
 
 そのまま幻想郷に居着くも良し、妖怪に襲われて食料になるも良し。どちらにしろ、態々紫程の大妖が出向いてくる事でも無い。
 
 紫は手にした扇子で口元を隠すと、
 
「……ただの気紛れですわ」
 
 そう言って、蓮子の背後に外の世界へと繋がる隙間を開いた。
 
「待って!? まだ私の友達がこっちの世界に居るの!」
 
 呪縛を振り払い、何とか声を張り上げる蓮子の身体を、隙間から伸びた無数の手が拘束して引き込んでいく。
 
 懸命に抗おうとする蓮子。
 
 そんな彼女に対し、隙間越しに紫の声が届いた。
 
「ご安心なさい。貴女のお友達もちゃんと送り返して差し上げますわ」
 
 不思議と安堵する声色に含まれるのは友愛の感情。
 
 完全に隙間に飲み込まれる寸前、一瞬だけ見えた紫の顔は、
 
「メ……ッ!?」
 
 全てを言い終わるよりも早く、蓮子を飲み込んだ隙間が閉じた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 静寂の戻った香霖堂。
 
 一拍の間を置いた霖之助は慎重に言葉を選んで口を開く。
 
「……何故、泣いているんだい?」
 
 対する紫は息を吸おうとして僅かに呼吸を乱し、それでも取り繕うように、
 
「目に埃が入っただけですわ。……この店、少し掃除が行き届いていないのではなくて?」
 
 強がってみせようとする紫。
 
 霖之助は溜息を一つ吐き、「そうかい」とだけ告げて、視線を手元の本に戻す。
 
 彼の理性が告げる。
 
 厄介事に首を突っ込むな、と。
 
 彼の本能が告げる。
 
 面倒事は避けろ、と。
 
 ……我ながら度し難いな。
 
 苦笑混じりの溜息を吐き出し、席を立つと、
 
「……紫。知っての通り、この店には客なんて滅多に来ない」
 
「えぇ、存じてますわ」
 
 ちょっとは否定して欲しかったが、アッサリと肯定されてしまい少し気落ちするも霖之助は言葉を続ける。
 
「僕はこれから散歩に出掛けてくるから、その間は店を好きにしてくれて良いよ」
 
 遠回しな物言いではあるが、紫は霖之助の言いたい事を即座に理解した。
 
 つまり、「ここなら誰にも弱みを見せる心配も無いから、心行くまで泣いていくと良い」と。
 
「……ホント、不器用な人」
 
「自覚はあるよ」
 
 今日何度目かの溜息を吐き、紫の傍らを通り過ぎて扉へ向かおうとする霖之助の背中を横から伸びた手が掴み留める。
 
「……せめて、背中だけでも貸して下さいな」
 
 何時もの紫らしからぬ弱々しい声。
 
 事情は分からないが、あの少女との別れは紫にとって特別な事だったのだろう。
 
「うちの店では生き物は扱っていないんだが……」
 
 紫の手を振り払い、身体を反転させると彼女の身体を抱き締める。
 
 ……こんなに、小さかったのか?
 
 幻想郷を裏から牛耳る大妖怪の本質が、霊夢や魔理沙となんら変わらない少女である事を認識し、僅かな驚きを得るが、それを表に出す事も無く、
 
「今日は特別だ」
 
 左手で紫の背中を抱き締めたまま、右手は彼女の頭を優しく撫でてやると、安堵したのか? 一旦、堰き止めた筈の涙が再び溢れ出してきた。
 
「う……、うあわぁああぁぁ!! 蓮子! 蓮子! 蓮子!! やっと……、やっと会えたのに! お話したい事もいっぱいあったのに……!?」
 
 一度、堰を切ってしまうと、悔恨の念は止まらない。
 
 だが、今の自分に彼女の傍らを歩く資格は無いのだ。
 
 妖の身となってから数千年……。既に幾万もの人間を殺し、食らってきた。
 
 そんな化け物となった自分が、今更、親友面しようとは虫酸が走る。
 
 ……諦めよう。そうすれば楽になれる。
 
 元より、人の道を外れる事を選んだのは他ならぬ自分自身なのだ……。そんな外道には、こんな別れが相応というものだろう。
 
 全ての未練をここに捨て去ろうとする紫は、頭上から語られる声を聞いた。
 
「僕は、君と彼女がどんな関係なのかは知らないし、君が何故、彼女を外の世界に戻したのかも分からない」
 
 だが、
 
「彼女は、とても八雲・紫という存在に興味を示していたよ?」
 
 ……思わず納得してしまう。
 
 人間として会えないのならば、妖怪、八雲・紫として、また一から彼女との関係を始めるのも有りかもしれない。
 
 ……それに、あの娘の傍らには、あの時代の自分も居る筈だし。
 
 霖之助の言葉で色々と吹っ切れた気がした紫は、今度は泣く為ではなく、甘える為に霖之助の胸に顔をすり寄せる。
 
「……立ち直ったようなら、そろそろ離れてもらいたいんだが」
 
 呆れた声色で霖之助が告げると、紫は拗ねたような口調で返してきた。
 
「あら、今日は特別なのではなくて?」
 
 それでも名残惜しそうに身体を離す紫。
 
 もう大丈夫だろう。と思い、霖之助が安堵した一瞬の隙を付いて紫と霖之助の唇が重なり合った。
 
 ……僅かな間を置いて、再び離れる二人の距離。
 
「これは、胸を貸して頂いた代金という事でお納めくださいな」
 
 扇子で口元を隠し、妖艶な笑みを浮かべたままの紫が隙間に姿を消える。
 
 残された霖之助は溜息を吐きながら肩を竦め、
 
「……取り敢えず、お茶かな?」
 
 お湯を沸かしに、勝手場へと向かった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ……無人となった香霖堂店内。
 
 その片隅に置かれた大きな壺から緑色の髪をした少女が顔を覗かせる。
 
「お、大人の恋愛です。ギイギイ」
 
 ……後日、キスメから今日の出来事を聞いた少女達が霖之助を問い質したという。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「蓮子! ……蓮子!」
 
 自分の名前を呼ぶ声に導かれるように、宇佐見・蓮子の閉じられていた瞼がゆっくりと開く。
 
 まず視界に入ったのは、良く晴れた青空と白い雲。そして心配そうに自分の顔を見下ろす友人の姿だ。
 
「良かった。何処かおかしい所とか無い?」
 
 上半身を起こし、周囲の状況を確認する。
 
 荒れ果てた境内。朽ちた拝殿。倒壊した鳥居。
 
 ……そう、ここは、
 
「博麗神社?」
 
「えぇ、どうやら私達。元の世界に戻されたみたい」
 
「そうなんだ……」
 
 蓮子が立ち上がると、彼女に合わせるようにメリーも立ち上がる。
 
 思案する事数秒、自分の身に起きた事を思い出そうとしてみるも、古道具屋に入り、色々と話した事までは覚えているのだが、どうも最後の方は曖昧だ。
 
「……ねえ、メリー。あの時はぐれてからどうなったの?」
 
 問われたメリーは小さく頷き、
 
「そうね……、暫く歩いていたら巫女さんと魔女に会って神社に連れて行かれたわ。
 
 その後で、美人でキュートでチャーミングで可愛くて綺麗な妖怪がやって来てね。あっという間に、こっちの世界に帰されちゃった」
 
「……そうなの? うわ、ちょっとその妖怪に会ってみたかったかも。
 
 私の方なんて――」
 
 ……イマイチ顔は思い出せないが、それでも覚えている事がある。
 
「胡散臭そうな妖怪が来たわよ。まあ、店主さんに色々と面白い話を聞かせてもらったから良いけど」
 
「そうなの? それは残念だったわね」
 
 雑談しながら二人は示し合わせたわけでもないのに、同じタイミングで歩き始める。
 
 まずは食事だ。――その後で、再度幻想郷へ行く予定を詰めよう。
 
「取り敢えず、私としては、その店主さんって言うのが気になるんだけど−?」
 
「ん? 結構イケメンだったわよ。銀髪で眼鏡掛けた」
 
 その特徴を聞いたメリーの眼差しが鋭くなる。
 
「うん。取り敢えず、詳しい話聞かせてもらおうかしら?」
 
 そう言った彼女の顔は、件の妖怪を彷彿させた。と後に蓮子は語った。
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