香霖堂繁盛記
 
書いた人:U16
 
第15話 詐欺師とブン屋
 
 幻想郷と呼ばれる閉鎖された世界がある。
 
 この世界とは見えない壁一枚を隔てた所にある異世界。
 
 そこでは、人間だけでなく妖精や幽霊、吸血鬼に妖怪、更には宇宙人や死神、閻魔様に神様までもが存在していた。
 
 その幻想郷の魔法の森と呼ばれる湿度の高い原生林の入り口に、ポツンと建てられた一件の道具屋。
 
 掲げられている看板には香霖堂の文字。
 
 店の中に入りきらないのか? 店の外にも様々な商品が乱雑に積み重ねられている。
 
 ここ香霖堂は、幻想郷で唯一、外の世界の道具も、妖怪の道具も、冥界の道具も、魔法の道具も扱っている店であるが、外の世界の道具に関しては誰にも使い方が分からないため余り売れていないらしい。
 
 というか、僅かに使用方法の分かった外の世界の道具は、全て店主である森近・霖之助が自分のコレクションに加えてしまうので、商売としては成り立っていない。
 
 まあ、そんな感じで、ここ香霖堂は今日ものんびりと適当に商売していた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 射命丸・文は考えていた。
 
「……どうやったら、新聞の購買数を増やす事が出来るのでしょう?」
 
 正直な話、文々。新聞の購買数は天狗達の中でも最弱と言っていい程だ。
 
 幻想郷縁起では阿求に頼んでカフェーで人気と書いてはもらったものの、実際の所カフェーになど卸してはいない。
 
 妖怪の山の中でも彼女の新聞を購読してくれているのは、部下の椛や知り合いの河童、河城・にとりが付き合いで取ってくれているくらいで、他には紅魔館と香霖堂だけである。
 
「何か良いアイディアは無いものですかねぇ……」
 
 溜息を吐きながら、ネタを探して幻想郷中を飛び回る。
 
 しかし、大きな異変は疎か何かしらの事件すらなく、記事の穴埋めにでもなればと思い香霖堂にやってきた。
 
 ここには珍しい道具があるので、それなりに記事は埋まる。
 
 ……まぁ、本当に埋まるだけなんですが。
 
 文がドアを押し開けて入ると、いつものように店主である霖之助が出迎えてくれた。
 
「やあ、いらっしゃい」
 
 読んでいた本から顔を上げ、来客が文だと知った霖之助は僅かに驚き、
 
「……珍しいな。君が入り口から普通に入ってくるなんて」
 
 新聞の配達の時などはいつも窓を撃ち抜いて投げつけてくるのに。
 
「あ、あははは……」
 
 皮肉めいた霖之助の言葉に引きつった笑みで返し、
 
「今日はですね、何か面白いものでも仕入れていないかな? と思いまして」
 
 営業用スマイルを浮かべながら告げる文。
 
 対する霖之助は待ってましたとばかりに笑みを浮かべ、
 
「つまり、記事のネタが欲しいわけだね?」
 
「えぇ、ぶっちゃけそういう事です」
 
 隠す必要も無いと踏んだ文は躊躇い無くそう答える。
 
「なら、こういうのはどうかな?」
 
 席を立った霖之助は商品棚の中から小さな箱を手に取り、
 
「……何ですか? それは」
 
 手の平大の小さな箱だ。
 
 訝しげに眉を顰める文に対し、霖之助は得意げな表情で、
 
「これの名称は使い捨てカメラという。君の持つカメラ──」
 
 言って、文の肩から下げられたカメラを指し、
 
「それと同じ機能を持っている」
 
「そ、そんな小さな物がですか!?」
 
 これには流石の文も驚きを隠せない。
 
 こう言ってはなんだが、見るからに安っぽい造りをしている。
 
「山の巫女曰く、性能的には普通のカメラには大きく劣るらしいけどね。
 
 そんな使い捨てカメラが先日大量に入荷されたわけだが(第7話参照)、僕はこれを使って一つ商売をしようと思っている」
 
「ほほう、それはどのような?」
 
 興味津々といった様子で文が食い付いてきた。
 
 ……ここからが、勝負だな。
 
 何しろ、この勝負には文の協力が必要不可欠なのだ。
 
「このカメラを安価で販売し、写真コンテストを開こうと思っている。
 
 勿論、僕には写真を現像する技術は無いので──」
 
「協力しましょう!」
 
 全てを言い終わる前に文が即決した。
 
 ……ここまでは計画通り。そして、問題はこの後だ。
 
「まあ、待ってくれ。確かに君の協力は必要不可欠だが、話は最後まで聞いて貰いたい」
 
 無言で頷くものの、目が早く話せと言っている。
 
「まず、このカメラを僕が赤字覚悟の安値で売る。コンテストの参加料も無料とするが、それとは別に現像代は徴収しようと思うから、その辺は安心してくれていい」
 
 ……通常の現像代の倍の料金でね。と内心で付け足しておく。──差額分は勿論、霖之助が全額頂いていく予定だ。
 
 勿論、普段からカメラに触れた事も無い者達には、その価格が適正であるかなど分からない。
 
 好奇心旺盛な天狗達も参加するだろうが、彼らは自身で現像する技術を持っているので文句は言ってこないだろう。
 
 そして、客を逃がさない為にも、もう一つ罠を張る。
 
「優勝者には、このストーブを賞品に出そうと思う」
 
 ストーブと言えば、冬を暖かく過ごせる香霖堂随一の素敵アイテムだ。
 
「ほ、本気ですか店主!?」
 
 これが貰えるとなれば、皆、目の色を変えて参加するだろう。
 
「勿論、僕もコレを手放すつもりは毛頭無い。……そこで君に提案だ」
 
 ──君も、この写真コンテストに出て優勝するんだ。審査員は僕が務めるから、作品さえ出してくれれば、後はどうとでもなる。
 
 両手を組んで橋をつくり、それで口元を隠してニヤリと笑う。
 
「わ、私に八百長の手伝いをしろと言うんですか!?」
 
「君は独占記事と栄誉を手に入れる事が出来る。僕は店の宣伝にもなりストーブを手放さずに済む。
 
 最高の取引だと思うんだか、どうだい?」
 
「くぅ……」
 
 良心と欲望の間で思い悩む文に対し、霖之助は更に追い打ちを掛けるために口を開いた。
 
「君は写真のプロなんだろう? なら、八百長ではなく実力でも優勝を狙えると思うんだ」
 
 その甘く囁くような言葉に文の心は僅かに揺れ動き始める。
 
「そ、そうですか?」
 
「そうだとも。それに写真コンクール優勝者の撮る写真が掲載されているという事実が加われば、文々。新聞の売り上げも上がること間違い無しだろう」
 
 新聞の売り上げ間違い無し。
 
 今の文にとってこれ以上の誘い文句は無い。
 
 文はまるで熱病に浮かされたような眼差しで霖之助の手を取り、
 
「写真コンクール……、必ず成功させましょう!!」
 
「あぁ、勿論だとも」
 
 霖之助が今まで座っていたカウンターの上、文が来るまで彼の読んでいた本には、“商売で儲けるための嘘 著:因幡・てゐ”と書かれていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 その翌日、早速号外という形で写真コンクールの告知が幻想郷中にバラ撒かれ、皆がストーブ欲しさに挙って香霖堂を訪れ、使い捨てカメラを買っていった。
 
 中には自前のカメラを使うという猛者も何人か居たが、それらは一部の河童や天狗、そして八雲・紫などの少数派だ。大して計画に影響は無い。
 
 魔理沙と霊夢がいつものようにツケで払おうとしたが、その分を差し引いても今回は収益が見込めるよう計算してある。
 
 予想外だったのは、因幡・てゐ主催で行われたトトカルチョが妖怪達の間だけでなく、人里でも思いの外好評だったので、これは使えると読んだ霖之助は彼女に取引を持ちかけた。
 
 てゐが人里から永遠亭に帰る最中、里の外れにある大きめの石に腰掛けて煙管を吹かしている人妖を見つけた。
 
 ちなみに、今のてゐの姿は大きめの帽子でうさ耳を隠し、更にサングラスを掛けた珍妙な格好をしている。
 
 対する人妖は、青と黒の合わさった和と中の中間のような衣装を着込み、てゐの存在に気付いたのか? 彼女に視線を向けると小さく笑みを浮かべ、
 
「因幡・てゐさんだね?」
 
「人違いさね」
 
 一瞬の迷いも無く本当に人違いのように素っ気なく告げ、そのまま通り過ぎようとするてゐ。
 
 だが、人妖は通り過ぎようとする彼女に対し、擦れ違い様に、「写真コンクールで良い儲け話があるんだが」と囁いた。
 
 儲け話という単語に思わずてゐの足が停まる。
 
 彼女は振り向かないままで、
 
「話を聞こうじゃないか」
 
 霖之助がてゐに語った話はこうだ。
 
 写真コンクールでは審判権限を使って文を優勝させる。──なので、トトカルチョでの彼女の倍率を操作して欲しい、と。
 
 最初は訝しんだてゐだが、霖之助の目的が密かに自分もトトカルチョに参加して利益を得る事だと知った彼女は彼の事を信用し、……下手に無欲を装うよりは、金銭などの分かりやすい理由があった方が、がめつい相手はこちらを利用しようとして話に乗ってくる(因幡・てゐ著:商売で儲けるための嘘より抜粋)。これを承諾した。
 
 胴元のてゐとしても、本命に勝たれるよりは、倍率の高い相手に勝ってもらった方が自分に入る利益が大きいのだ。
 
 勿論、双方ともに本心の部分ではお互いを信用しておらず、いつでもトカゲの尻尾切りが出来るように準備を整えておくつもりである。
 
 そして翌日から早速、てゐの工作が始まる。 
 
 てゐが流した噂は、射命丸・文は新聞記者を本業にしているが、写真の腕はからきしで、その証拠に彼女の発行している文々。新聞は全然売れていない。というものだ。
 
 実際、文々。新聞の発行部数が少ないという事実も手伝い、文の倍率はあれよあれよという間に上がっていった。
 
 代わりに本命となったのが八雲・紫。
 
 彼女は外の世界の最新鋭でじかめという物を使用するので、優勝間違い無し! という噂を流した為だ。
 
 この作戦が功を奏し、当初の目論見通り文の人気は落ち込み倍率は跳ね上がっていった。
 
 だが、ここで予想外のアクシデントが起きてしまう。
 
 写真コンクール用の写真を撮る為、被写体を探して飛び回る文。
 
 勿論、本職である新聞記者としての仕事もついでにこなすべく、コンテストに参加するであろう使い捨てカメラを構えた妖怪達にも出会う度に声を掛けて意気込みの程を聞いていた。
 
 その日も、偶然見かけたリリカ・プリズムリバーに取材しようとした時の事だ。
 
 彼女の傍らに居た、大きな帽子とサングラスを掛けた胡散臭い雰囲気を醸し出す小柄な人物が手帳を片手に何やらリリカと話し合っていた。
 
「それで、どうするんだい? 早くしないと、締め切っちまうよ」
 
「うー……、やっぱり射命丸辺りにしとくべきか……」
 
 参加者リストとにらめっこしながら考え悩むリリカ。
 
 その光景から、二人がコンテストのトトカルチョを行っている事を察した文は声を掛けるのを止め見守る事にした。
 
 ……まあ、自分に賭けてくれるのは正直嬉しいですし。
 
 そんな事を考えながら二人の様子を見ていると、ノミ屋が難しい顔で、
 
「あー……、射命丸なぁ。……うん。別に良いんじゃない? なら、それにしとく?」
 
「……何よ? 何か引っ掛かる言い方ね?」
 
 眉根を寄せ、訝しげに問い掛けるリリカ。対するノミ屋は周囲を見渡して人影が無いことを確認すると、顔を寄せて小声で囁くように、
 
「正直、射命丸の優勝は無理だろうなぁ……。ほら、やっこさん何とか新聞とか出してるだろ?」
 
「文々。新聞の事?」
 
「そうそう、それそれ。だけどなー……、アレ全然売れてないらしいじゃないか」
 
 思い当たる節があるのか? ノミ屋の言う事に頷くリリカ。
 
「新聞が売れない理由は何か? そりゃ、写真が下手だからだよ。
 
 ──私なら、絶対射命丸にだけは賭けないね」
 
「そ、そう?」
 
「当然さ。下手と分かってるような奴に賭けるくらいなら、まだ未知数の奴に賭ける方が確率が高いってもんさね。
 
 中でも本命と言えるのが……」
 
 ノミ屋はそこで口を閉ざし、リリカの方へ手を差し出した。
 
 これ以上聞きたければ、出す物を出せというニュアンスを前に、リリカは暫く悩んだ挙げ句に、ポケットからがま口財布を取り出して、そこから10銭銅貨を手渡す。
 
「毎度あり♪」
 
 ノミ屋は笑みを浮かべると、小さく咳払いし、
 
「本命はズバリ、八雲・紫だね。
 
 他の連中は、同じ“かめら”を使ってるのに対し、彼女が使ってるのは外の世界の“最新鋭でじかめ”とかいうのだそうだよ。
 
 腕が皆同じなら、単純に良い道具を使ってる者が勝つのが常識ってもんだ」
 
 確かに、ノミ屋の言うことにも一理ある。
 
 1分程考えたリリカは、やがて決断すると財布をノミ屋に付き出し、
 
「八雲・紫に全部!!」
 
「毎度あり♪」
 
 お金と引き替えに小券を渡すノミ屋の視界の隅、空に飛んでいく鴉天狗の少女の後ろ姿が見えた。
 
 ……ありゃ? 射命丸? ……拙いね、もしかして聞かれてた?
 
 サングラスの下で、眉根を寄せるノミ屋、……もとい、因幡・てゐ。
 
 ……下手すると落ち込んで計画にも支障がでる可能性もある、か。……ちょっと、フォロー入れとく必要があるかもね。
 
 そんな事を考えながら、もはや用はないとリリカを適当にいなしつつ、てゐは香霖堂へ向かった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 普段、元気に振る舞っている分、今まで積み上げてきたものを否定され、プライドを砕かれた文はかなり落ち込んだ。
 
 記事を書くことは疎か写真すら撮れず、沈んだ表情で、ただ酒を喉に流す。
 
 勿論、天狗である彼女がそうそう酔える筈もなく、先に店の酒を飲み尽くされたミスティアが今日の商売をどうしたものか? と半泣きで考えていると屋台に新たな客がやって来た。
 
「いらっしゃい。でもごめんねー。今日はもうお酒は無いのー」
 
 申し訳無さそうに告げる彼女は間違い無く自分よりは商売人として向いているのだろう。
 
 そう考えながら、霖之助は暖簾をくぐり、
 
「いや、今日は客じゃないんだ。ちょっと、彼女に話しがあってね」
 
 話題を振られた文がそこで初めて顔を上げ、隣に腰を下ろしたのが霖之助であると認識する。
 
「何しに来たんですか? ……私はもう写真コンクールには出ませんし、文々。新聞も止めるんです。
 
 どうせ、私の新聞を読んでくれる人なんて誰も居ないんです。
 
 止めた所で、誰も何も感じたりなんか……」
 
「ここに居るよ……」
 
「…………」
 
「君の新聞を楽しみにしている人がここに居る」
 
 その言葉は、ゆっくりと文の心に浸透していく。
 
「他の誰が否定しようとも、僕だけは断言するよ。
 
 ──君の新聞は最高だと」
 
 そんな事を言われたのは初めてだった。
 
 会心の出来だと思っていた記事も、読まずに捨てられたりするのを見かけるのに……。
 
 この人は、新聞記者としての自分を認めてくれる。
 
 文にとって、これほど嬉しい事はない。
 
 それがたった一人であろうとも、自分の新聞を楽しみにしてくれている読者がいるのなら……!
 
 失われていた力が全身に漲る。
 
 ……カメラは壊れてない。ペンも書ける。メモ帳の余白は充分。空を飛ぶ翼は折れてない!
 
「私は……」
 
 ──まだ飛べる!!
 
 勢い良く席を立つ文は、泣き顔を見られないように素早く振り向き、背の翼を全開に拡げる。
 
「……頑張れ」
 
 背後から掛けられた声に応えるように短く、しかしシッカリとした声色で返すと文は空へ飛び立って行った。
 
 文の姿が完全に見えなくなると、近くの茂みから因幡・てゐが姿を現し、
 
「どうやら、上手くいったようだねぇ」
 
 昔から落ち込んだ女が復活する理由とは、男と相場が決まっているものだ。
 
「よく分からないが、あれで良かったのかい?」
 
 本当によく分かっていない表情で告げる霖之助に、満足げな表情で返すてゐ。
 
 ……しかし、
 
「本人は気付いてないようだけど、コイツ結婚詐欺の素質は充分ありそうだねぇ」
 
 霖之助に聞き取れない程度の小声で呟くその表情は、あらたな儲け話を見つけた詐欺師の表情だ。
 
「さて、それじゃあ用も済んだし、店に帰って読書の続きでもするか」
 
 呟き、帰ろうとする霖之助の肩を鋭い爪の伸びた手が押し止めた。
 
「ところで、射命丸が飲んだ分のお代は誰が払ってくれるのー?」
 
 営業用スマイルで告げるミスティアだが、その目は微塵も笑っていない。
 
 助けを求め、てゐの方へ振り返るも既にそこには彼女の姿は無い。
 
「文のツケにするというのは……」
 
「ウチ、ツケはやってないのー」
 
 歌うように告げられ、結局霖之助が文の支払いを払わされる事になった。
 
「まだまだ甘いねぇ、ぼーや」
 
 茂みの中でほくそ笑むてゐの手には、焼きたての八目鰻の蒲焼きが握られていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 そして写真の応募も締め切られ、上位作品はてゐの口利きで永遠亭の一室を借りて展示された。
 
 満面の笑みを浮かべる小妖達の写真。
 
 季節感を無視した満開の花畑の写真。
 
 クレーターの輪郭までもがハッキリと分かる程に拡大された満月の写真。
 
 花火のような弾幕ごっこに興じる少女達の写真。
 
 太陽と月が同時に顔を見せる昼と夜の境界を撮った写真。
 
 騒霊達のライブで盛り上がる妖怪達を撮った写真。
 
 普通の人間では決して辿り着けない高空から撮った雲海の写真。
 
 そんな中、一際大きく引き延ばされているのは、見事に優勝を飾った写真だ。
 
 雨の降りしきる中、眼下に森を抱き、雲と木々の間を飛んでいく鴉を写した写真。
 
 他の写真と違い、この写真だけがモノクロのフィルムで撮られていた。
 
 派手さは無いものの、森と長雨に抱かれた鴉が飛ぶ光景は不思議と目を惹きつけられる。
 
「良い写真なのは見れば分かるし、これが優勝なのにも文句も無いが、……何だか嫌な感じがするぜ」
 
 その嫌な感じというのは、精神的なものでも生理的なものでもない。……言ってみれば乙女的なものであることを薄々感じ取っていた数人の少女達は流石というべきか。 
 
 ともあれ、この写真コンクールでの優勝を受け、文々。新聞の売り上げも若干伸び、霖之助もストーブを死守した挙げ句、裏ではてゐ共々結構な利益を得ることが出来た。
 
 ……のだが、
 
「何故、君がここに居るんだい?」
 
 季節は流れて冬。
 
 香霖堂でストーブの前に陣取りながら、新聞の原稿を書く文の姿があった。
 
 霖之助の質問を受けた文は原稿から顔を上げ、
 
「何故って? ……私、写真コンクールで優勝したじゃないですか。
 
 だったら、使う権利はある筈ですよね? ストーブ」
 
 だからと言って、まさか住み込まれるとは思わなかった。
 
「駄目でしたら、ストーブ持って妖怪の山に帰らせていただきますけど」
 
「いや、それは勘弁してほしい」
 
 霖之助にとって、ストーブは冬の生命線だ。これが無くては冬は越せない。
 
 それを奪われるくらいなら、居候が増えた方がマシというものか……。
 
 この居候。ちゃんと家事はしてくれるし。 
 
「だったら、何も問題無いじゃないですか」
 
 屈託のない笑みで告げる文。その顔には、もはや微塵の迷いも無い清々しいものだった。
 
 ──翌日、襲来した魔理沙と霊夢が文が香霖堂に居候している事を知って、彼女と一悶着を起こすのは、また別のお話。
inserted by FC2 system