ナイト・パレードにて……
 
書いた人:U16
 
 大覇星祭二日目、昼間の競技もつつがなく……、否、少々酷い目にあったりもして、身体を覆う包帯の面積が心なし増えたような気がしないでもない上条・当麻が、先日果たせなかった約束を果たすため、姫神秋沙、そしてインデックスと共にナイトパレードを見物に訪れていた。
 
 訪れていたのだが……、この馬鹿みたいな人混みだ。やはりというか、インデックスとはぐれてしまった。
 
 幸いというか、姫神・秋沙は車椅子に乗っており、それを押しているのが上条だった為、彼女とははぐれずに済んだ。
 
「あー、ったく、物珍しいからってフラフラするから……」
 
 ぼやきながら、上条は少し考え、
 
「まあ、あれだけ珍しい格好だから、すぐに見つかると思うけどな」
 
 確かに、体操服だらけの集団の中において、あの白いティーカップのような修道服はいやでも目立つ。
 
 そう結論付けて、ナイトパレードを見学しながら、ゆっくりと歩を進める。
 
 それまで一言も口を開くことなく、何か思い詰めたような表情をしていた姫神が口を開き、
 
「……君」
 
「ん? どうした姫神」
 
 唐突に掛けられた言葉に思わず立ち止まってしまう。
 
 すると、車椅子に座っていた姫神が立ち上がり、
 
「お、おい、座ってなくて大丈夫なのか?」
 
 と上条が心配そうに問いかけた時、いきなり姫神に唇を押しつけられた。
 
 どれだけの時間をそうしていただろう? 実際には、十秒にも満たない短い時間だったのだが、上条にとっては、時間が停止してしまったかのように思えた。
 
 やがて、姫神の唇がゆっくりと名残惜しげに離れていく。
 
「ありがとう。そう言いたかった。これはそのお礼」
 
「あ、いや、だからって、その何だ? いきなりキスするというのは、上条さん的にいかがなものかと!? ってか、キスとかっていうのは、そんなことでするもんじゃなくて、もっと好きな人とだな……!」
 
「私は君のことが好き」
 
「……え?」
 
 突然の告白に、上条の時間が再び止まる。
 
 告白して何か吹っ切れたのか、姫神は薄い笑みを浮かべると、
 
「返事はいい。君の周りには君を想う人が沢山いるから。
 
 ――でも憶えておいて。私もその一人」
 
「え、……あ」
 
 いうだけいうと、姫神はそのまま車椅子に腰を降ろしてしまった。
 
 すると、まるでタイミングを見計らっていたように人混みの中から声が掛けられる。
 
「あ、とうまだ! おーい、とうまー!!」
 
「こ、こんな所で会うなんて奇遇じゃない? ま、まあ私はどうでも良いんだけど、こっちも車椅子押してる身としては、歩くペースが同じになるのは仕方ないから、一緒にナイトパレード回ってやっても良いわよ」
 
「……何だが、非常に不本意ながら、お姉さまが殿方さんを誘う為のダシにされてるような気がしますわ」
 
「あ、いましたよー。上条ちゃん、姫神ちゃん、シスターちゃんも、先生達も一緒に回りますよー!」
 
「……先生、なぜ私まで一緒に? そこ笑うな上条・当麻。ん? 貴様なんだか疲れた顔してるわね? そんな時は大豆イソフラボンよ! これでも飲んで気合い入れ直しなさい」
 
「……身動きのとれない土御門とステイルから、事後処理を頼まれてやって来たのですが、相変わらずそうでなによりです上条・当麻」
 
 次々に集まってくる知人達に囲まれ、困惑顔の上条に対し姫神は小さく口元を綻ばせ、
 
「行きましょう。大覇星祭。もっと楽しまないと。吹寄さん達に悪いわ」
 
 頭をガリガリ掻いていた上条だが、姫神の言葉に頷き、その顔に笑みを浮かべると、
 
「ああ、それとさっきの言葉はちゃんと憶えておくから。――いつか絶対に返事する」
 
 その言葉を聞いた姫神は、上条が初めて見る満面の笑みを浮かべ、
 
「――うん。待ってる」
 
「ほら、とうま。早く行くんだよ!」
 
 笑みを浮かべながら、上条の背を押すインデックスにつられるように、上条も車椅子を押す手に力を込めた。
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